ふと目にした記事に「大舞台に強い人になるためのメンタルトレーニング」についての一節が載っていた。日大総合科学研究所の林成之教授によると「本能が勝負を決める」という。
しかし、自己保存のための本能が働いて言い訳を始めると、力を発揮できなくなる。これを防ぐには「別のことを考えたり、結果に至る前の過程に考えを集中したりすることが必要」というのだ。
だが、脳は急激な変化を受け入れないので、いきなり高い目標を掲げ、猛練習で一気に壁を乗り越えるには無理があるという。ならばどうするのか。「期限付きの全力投球を繰り返しながら、少しずつ変わっていくしかない」そうだ。
そこで思い浮かぶのが、日本ハム・斎藤佑樹投手(24)の存在。ダルビッシュがメジャーに移籍したため、エースに誰を据えるか、と栗山英樹監督は悩み抜いた末、斎藤を指名した。ルーキーだった去年、必死に投げ抜いたことで「勝負強い心を育て上げてくれた」と判断したからだろう。
その期待に応えて、開幕の西武戦では、9回を4安打1点に抑えて完投してくれた。栗山監督もホッとひと息といったところだろうと思っていたのだが、その後がいけない。セ・パ交流戦で何と3連敗(5試合で1勝3敗)だ。エースと期待するには早計、といった声が高まってきた。
それでも6月6日、24歳の誕生日に、学生時代からのライバル広島・野村に投げ勝って5勝目を挙げ、復活のきざしが見えてきた。
セ・パ交流戦も終わり、いよいよ夏場の首位攻防戦に突入する。「ここまで投げてきて、一番考えさせられたことは、先に点を与えないこと。気持ちを切り替えて出直しです。まだ考えも力も甘いけど、監督から"佑樹にあずけてよかった"と言われるよう頑張りたい」と言い切る斎藤。
投手とは不思議なもので、球が速ければ勝て、遅ければ撃ち込まれて負けるというものでもない。しかも、先発して勝ち投手の権利を得るまで…などと先を読むとろくなことはない。
芝草投手コーチはこう話している。「先発したら9回投げ抜く気持ちでいけ。投球の"間"がなくなると、間抜けになってしまう。しかし、ここへきて重心がかなり安定してきたので、これからはいいピッチングができると思う。頭のいい子だから、いろいろ考えてやってくれるだろう」。強い意欲を持てるようになれば、真のエースへの道もまた一歩、近づいてくるのではないか。
「一年が終わってみないとわからないけど、いまはどんな経験でも勉強ですから身につけていきたい。積み重ねた知識を、これからどう生かしていくか。同じ失敗を何度も繰り返すことのないよう、ここで何をすればいいかを考えて、しっかり投げていきたい。もうやるしかないです」
ルーキーで2試合登板(2回2/3)したオールスター戦も近い。「選ばれたら"さすが斎藤。成長した"と言われるピッチングがしたい」と強気だ。 |