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   2004年7月15日号
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話題の新刊
明治の教育精神
橘周太 中佐 伝
坂憲章著
 元、千々石町教育長の坂憲章(諫早市山川町在住、74歳)さんが、地元出版社出島文庫(長崎市金屋町)から、『明治の教育精神――橘周太中佐伝』を出版した。同書は、軍神としての一面しか知られていない明治の軍人、橘周太中佐の、教育者としての優れた業績を中心にその生涯をまとめたもの。陸軍幼年学校教官時代の、愛情あふれる、身を挺しての教育方針は、現代の教育においても優れた指針となるものです。
 坂さんは、「橘中佐の教育姿勢は、特に若年層の犯罪、非行の凶悪化を防ぎきれない現代社会、とりわけ教育の分野で大いなる指標となります。橘周太の教育にかける情熱と方法論は、今こそよみがえさせるべき価値をもつものです。教育者、保護者の方々に一読をお薦めしたい」と語っている。
 なお、本書は『教育者橘周太中佐』として平成11年に出島文庫から出版され、絶版となっていたものに加筆し、改題した。『明治の教育精神――橘周太中佐伝』は、四六判218頁、税別定価1429円で、長崎県内の書店及び全国の大型書店で販売中。
  ◇ ◇
 ※お問い合わせは出島文庫編集室(TEL 095-825-2960)まで。

自殺予防Q&A
〈第4回〉
自殺未遂を軽視しない
防衛医学研究センター  高橋祥友
 「若い隊員が睡眠薬をのんで、手首を切った。すぐに病院に運ばれて、命に別状はなかった。あの薬を何錠かのんだとしても、死ねないはずだ。それに手首の傷だって大した血も出ていない。同僚や家族を脅かそうとしただけではないのか? 狂言自殺ではないのか?」
 このような事態が生じると、職場の関係者や家族は、自傷行為が死を意図したものではなかったはずだととらえる傾向が強い。しかし、それほど楽観的にみては困るのだ。
 将来、自殺で命を失う危険を予測する因子がいくつも挙げられているが、その中でも自殺未遂がもっとも危険な出来事であると多くの研究者が報告している。自殺未遂をけっして軽視してはならない。
 これまでに自殺未遂のあった人が、その後も同様の行為を繰り返して、実際に命を落とす確率は、そのような行為を認めない人の数百倍にも上る。
 たとえば、高い建物から飛び降りたり、電車に飛び込んだりしたのに、奇跡的に助かった人が真剣に自殺を考えていたことは、周囲の人もまず疑うことはないだろう。
 しかし、薬を少し余分にのむとか、手首を浅く切るとかいった、それ自体では直接生命の危険をもたらさない行為の場合、本気ではなかった、ただ周りを脅かそうとしただけだ、狂言自殺だなどと関係者は考えがちである。
 自殺を図ったのではないと思いたい気持ちは理解できるのだが、けっしてそれほど軽く考えてはならない。このような形で自分を傷つけた人も、長期的な経過を見ると、やはり自殺してしまう確率がきわめて高いというのが現実である。
 また、自殺未遂の直後には表面的にはそれまでの強い不安や抑うつがすっかりおさまってしまったように見える人もいる。時には、自殺未遂をまるで他人事のようにあっけらかんと語ったり、軽躁的に見えたりすることすらある。しかし、これはあくまでも表面的なものにすぎない。自殺未遂という行為に及んだということが表面的な問題を隠してしまっているだけなのだ。
 もともと抱えていた深刻な悩みに根本的な解決が図られないと、しばらくするとまた不安や抑うつ感が戻ってくる。そして、再び自分を傷つける行動に出る可能性が高まる。
 したがって、自傷行為に及んだ人に対しては、専門家による治療をきちんと受けられるように配慮してほしい。

<彰古館 往来>
陸軍三宿駐屯地・衛生学校
〈シリーズ 30〉
衛生車・除毒車
陸自化学部隊・除染システムのルーツ
 衛生という言葉から連想する救護・治療などのイメージのほかに、もうひとつ予防衛生という考えがあります。いわゆる防疫です。
特に戦地では不衛生になりやすく、赤痢、コレラ、腸チフスなどの蔓延を招く条件が揃っています。ほかにも第1次世界大戦で初めて使用された毒ガスなどの化学兵器に汚染される状況も加味されます。これらに対処するために開発されたのが衛生車・除染車です。
 衛生車は、前軍・後車の2両で構成されます。前車は1,500リットルの給水槽を持ち、石井式濾水機を使用して毎時1,000リットルの清水を補給し、必要に応じて冷水、冷炭酸水、熱湯茶として給水することが出来ます。
 また、主食・副食60食の温食を炊飯し、飯合300個を保温する機能があります。
 この潤沢に使用できる温水を利用して1立方メートル容量の浴槽2個を備えています。冬季でも7〜8分で入浴の適温に達します。
 ほかにも蒸気消毒によって毎時1,000人分の被服を消毒する能力があります。
 除毒車は温水シャワーによって汚染物質を洗い流すシステムで、指揮官車、除毒車、材料車から編成されます。指揮官車は通常の使用法のほかに要すれば寝台車になり、負傷者の輸送に使用します。除毒車は、石油を熱源とする急速加熱炉を備え、1,200リットルの水を約10分以内に摂氏45度に加温する能力があります。材料車は、除毒場、天幕、潅注器材、交換被服、毛布などを格納・運搬するものです。
 開発は昭和6年(1934)から9年(1934)にかけて行われました。基礎研究から数次の運用研究を経て構想が固まります。その結果、馬で引く器材や、馬に載せる駄載の器材に勝る車両積載のかたちで試作されました。これらの器材を稼動するのに必要な動力と、運搬するのに必要な車両を一体化した車載方式の採用によって、患者自動車、手術自動車、レントゲン車などと行動をともに出来るようになり、衛生自動車班が誕生したのです。
 衛生車・除毒車は、現在陸上自衛隊の化学部隊が装備する除染システムのルーツとも言える器材なのです。

部隊長統率とメンタルヘルスは両立する?
立川駐屯地業務隊衛生科長 1陸尉  高橋博子
 6月3日、立川駐屯地(司令・平野隆之1陸佐)では、自衛隊中央病院から精神科医の山下3佐・宮島1尉、看護官の安藤2尉を迎え、駐屯地隊員に対してメンタルヘルス教育を実施した。健康管理教育として3年前から始めたこの教育には、中央病院から専門医・看護官を迎え、「専門的な内容をわかり易く!」をモットーに実践している。今年からは、全隊員に対する教育に加えて、駐屯地司令をはじめとする部隊長との懇談会も実施した。
 体育館に集まった約300名の隊員に対し、まず、精神科医・宮島1尉による「職場で出来るメンタルヘルス」の教育が行われた。毎年全国で3万人、自衛隊でも約50人という自殺者の数の多さに驚きの声が漏れていた。自殺の原因の約9割が精神疾患を抱え、最も多いのが「うつ病」と聞き、うつ病患者対策の必要性を実感した。自殺防止対策として「自殺予防の10ポイント」というお話に触れ、筆者自身にもいくつか当てはまるものがあり、その対策の重要性を改めて認識させられた。
 続いて看護官・安藤2尉の「心の健康管理」教育では、「メンタルヘルスの3つの要素」として、(1)セルフケア、(2)周囲からのケア、(3)専門医的な対処という項目についての説明がなされた。自己のストレス度の測定法や、コントロール法、解消法をわかり易く教育していただいた。
 最後に、精神科医・山下3佐から、防衛庁メンタルヘルスチームとして活動されている豊富な経験をもとに、「カウンセリング・マインド」に関するお話があった。「ストレスの限界点を過ぎると、コントロール不良となり心理的狭窄を誘発し、自殺することしか考えられなくなる」という状態に至る経過を詳しく説明された。近くにいる者(職場・家族)が、自殺者の兆候をいち早く発見してあげること、そして専門医治療を受けさせることが自殺予防につながることの重要性をいろいろな例をあげて強調された。
 部隊長との懇談は、講師に対する質問形式で行われたが、部隊長からの質問は途切れることなく時間を大幅にオーバーした。種々の質問に対し、山下3佐は熱心に応答し、特に「うつ病は風邪のように誰でもかかる病気ですが、必ず治ります。但し、1年ぐらいの長期スパンで考えてください」「うつ病の既往のある隊員は、ストレスがかかった時の反応に注意・配慮すること。同じようなパターンで再発すること。本人だけでなく、営内生活や家族(親)関係・借財等の周辺状況から総合的に判断すること」という回答に部隊長は大いに勇気づけられた。精神科受診を嫌がる隊員に対しては心理幹部カウンセリングを受けさせたり、電話相談を活用する方法があるとのアドバイスがあり、うつ状態やうつ病の隊員を抱え、対応に苦慮している部隊長にとって、耳よりな情報であった。
 今回のメンタルヘルス教育は、隊員全員、特に部隊長にとって有意義かつ、大変参考となる教育・懇談であった。

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