11月8日の夜、あなたはどこで誰と赤い月を見上げましたか?
天気にも恵まれた皆既月食。今回は、皆既食中の月が惑星の一つである天王星を隠す天王星食が同時に起きるとのことで、大変注目を集めました。
全国の自衛隊員&家族の皆さん・本紙読者の皆さんはじめ多くの国民の皆さんが、一刻一刻変化する月に興奮しながら、スマホやカメラに素敵な天体ショーを収めたことと思います。
月食と惑星食が同時に起きるのは大変珍しく、前回、日本で皆既食中の惑星食が観測できたのは、なんと1580年(天正8年)7月の土星食以来、442年振りとのこと。ときは戦国の世、織田信長の安土桃山時代です。信長は、どこで誰とどんな思いで見上げていたでしょう。(ちなみに本能寺の変は、それから2年後の天正10年6月2日)
ここで気になる質問。
Q.次に日本で見られる月食中の月による惑星食はいつですか?
A.国立天文台によりますと、「322年後の2344年7月26日に起きる皆既食中の土星食までありません!」
思わず笑い出したくなるほどに想像もつかない超々未来の話し。その頃の日本人は、2022年(令和4年)をどんな年として捉えるでしょうか。
実は、今を生きる僕たちが見ることが出来る極めて珍しい天体ショーが、来年2023年4月20日にあります。金環皆既日食です。
日本でも南西諸島等で部分食は見られるとのことですが、中心食は見ることが出来ません。しかし、アジアで一番新しい国・宮古島の南5000km・岩手県ほどの全国土面積・日本と時差の無い東ティモールまで少し足を延ばせば、中心食を見ることが出来るのです!
東ティモールと言えば、かつて、PKO活動として同国に派遣された防衛省・自衛隊の諸先輩は、劣悪な道路や橋を整備したり、独立回復式典(2002年5月20日)会場の整備等を行う中で、東ティモール国民の皆さんと親しく交流し、信頼関係を築き挙げて来ました。心の壁を作ることはありませんでした。その後も、同国軍の能力構築支援や人材育成等に積極的に取り組んで来ており、相互の緊密な関係は進展を続けています。
国づくり真っ只中にある東ティモールは、本年独立回復20年を迎え、更なる20年に向けて歩き出しています。
そんなとき、先日(11月11日)、カンボジアのプノンペンで開催されたASEAN首脳会議が、東ティモールのASEAN加盟を認めることで基本的に合意しました。具体的な加盟時期は未定です。
「東ティモールには近年、中国の経済進出が目立っていた。大国同士の綱引きに対して中立の立場を取るASEANの一員に加わることは、地域秩序の安定にもつながる。今回の合意を歓迎したい。・・・ASEANがこのタイミングで加盟に同意したのは、米中対立を背景に地政学情勢が緊迫するなかで、加盟国の拡大によって存在感を高め、大国の影響を受けにくい状況をつくる狙いがある。インフラ支援を進める中国の影響力突出を食い止めたい思惑も透ける」(11月15日付、日本経済新聞社説)
東ティモールは、インドネシアがASEAN議長国を務めていた2011年3月に正式に加盟申請しました。東ティモールはインドネシアとの間で、24年間にわたり約20万人が犠牲になる激しい独立回復闘争を続けて来た歴史があります。しかし、インドネシアがASEAN議長国の時に正式加盟申請をしたことは、今や両国が未来志向の良好な関係にあることを内外に如実に示すものでもありました。
今後、正式加盟に向けたロードマップが策定されますが、来年は、再びインドネシアがASEAN議長国となります。議長を務めるのは、ジョコ・ウィドド大統領。正式加盟実現が期待されます。
ジョコ大統領といえば、先日(11月15日〜16日)、ASEAN加盟国で唯一のG20メンバー国として、ロシアのウクライナ侵略後初のG20首脳会議をバリにて対面で開催し、初めて議長を務めました。特記すべきは、今回首脳宣言をまとめるのは困難ではないかとの大方の事前の見方を覆して、見事に「G20バリ首脳宣言」採択にこぎつけたことではないでしょうか。ジョコ大統領は、バイデン大統領と習近平国家主席の落ち着いた振る舞いが、白熱した議論を収束に向かわせた旨述べています。(11月18日付け、日本経済新聞)
首脳宣言の中には、インドのナレンドラ・モディ首相がプーチン大統領に対面で語ったと伝えられる「今の時代は戦争の時代であってはならない。(Today's era must not be of war.)」が、そのまま生かされています。ちなみに、次回G20の議長国はインド。
日本に居る僕が思っている以上に、今や大きな力と影響力・存在感を増しているインドネシアとインドの凄みの一端に触れたような気がしました。何故か身が引き締まる思いを禁じ得ません。
ところで、東ティモールのASEAN加盟に関して日本は、2009年3月にグスマン首相(当時)が来日され麻生首相(当時)と首脳会談をした際に、初めて東ティモールの「円滑なASEAN加盟支持」を表明しています。爾後、加盟に向けた各種支援を継続し、今日に至っていますが、この度、ASEAN首脳会議が基本的に加盟に合意したことは、即ち、「円滑」な加盟にほかなりません。
正式加盟までに、東ティモールがなすべきことは多々あります。正式加盟前の、日本の時宜を得た有用な支援がもたらす外交成果は述べるまでもありません。
岸田首相は、東南アジア訪問等についての内外記者会見(11月19日首相官邸HP)にて、「グローバル・サウスとの関係強化の必要性」に言及しつつ、「来年は日ASEAN友好協力50周年の節目の年であり、12月をめどに東京で日ASEAN特別首脳会議を開催します」と語っています。是非、東ティモールも招待していただきたいと思います。
皆さんには、このような東ティモールを自らの目で見ていただき、東ティモールの人々に触れていただければと思います。そして、日本と同じ "SUN RISE" の国と呼ばれる東ティモールで見る金環皆既日食が待っています。
僕は、国立天文台に電話して、日本で金環皆既日食が見えるのはいつか聞いてみました。「調べていかなければ分からない。少なくても100年くらいは無い。1000年、2000年先のことは地球の自転の関係もあり確定的なことは言えない」といった真に壮大な答えでした。
とても待てません。
「そうだ (京都ではなく)東ティモール 行こう!」です。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |