前回、経済をベースとする日本の国力の深刻な低下について述べた。以下は、国力の衰退を防ぎ、日本が豊かな、力をもった国でありたいと願う私の、どうすべきかという思いの断片である。
まず、日本をダメだと言わないようにしたいと思う。自国をダメだと言うような国民が多数を占めれば、日本は国民の思いどおりのダメな国になるだろう。これについて、日本人としての自信と精神の強さが根本であるが、自信を弱めているものに、自国の歴史を否定的にみる歴史認識がある(いわゆる自虐史観など)。事実本位で自国の歴史を基本的に肯定する正当な歴史認識をもちたい。
次に当たり前の国家意識をもちたい。国家主義ではない普通の国家意識である。国家は組織であるが、共同体であって人と同様の尊厳性をもち、国民の生存と幸福を左右する力をもつ。そして国家は空気のように存在しているわけではなく、我々がつくっているものである。そのような国家に何の貢献もせず、ただ国に要求し、国に依存する精神は改めたいと思う。「国を支えて国に頼らず」の気概をもちたい。
政治に対する姿勢も同じである。我々は政治をもっと重視すべきである。そして選挙で選ばれた政治家は国民から委任された責任の重みを自覚し、国の直面する課題に先送りせず取り組み、決定していく。政策を決定するとき、反対意見があるのは当り前で、議会で議論を尽くした後は民主主義のルールに従って採決するのみである。日本に「強行採決」という言葉があるが、こうした感情的な言葉は世界の成熟した民主主義の国にはないことを知っておきたい。
次に、教育はいかにあるべきか。初等教育で重視すべきはまず国語である。次に算数(数学)。中等教育では国語、英語、数学、物理等の科学。そしてAIリテラシーを中等教育から教える。高等教育ではAI・データサイエンス/テクノロジー教育を強化する。自然科学、工学教育は蛸壺にならないようにする。従来の人文科学、社会科学も人類の知的財産として教える。そして、真理を研究する教育とともに価値を創造できる人材の育成を目指す。
日本経済の凋落を防ぎ、あらためて経済の重要性を認識するとき、現在の資本主義体制に改良の余地があると知る。原丈人氏の提唱する「公益資本主義」に注目したい。現代資本主義は株主利益を第一とする「株主資本主義」傾向が強い。その経営は長期視点に立つ研究開発投資を生まず、従業員への配分に薄く、所得格差の拡大を生む。「公益資本主義」は会社を「社会の公器」と考え、すべてのステークホルダー(社員、顧客、経営者、株主、仕入れ先、地域社会)にバランス良く利益を分配する。「公益資本主義」経営が長期的なイノベーションを生み、豊かな中間層を生み、長期的にはより多くの富を生むと思う。「公益資本主義」は伝統的な日本的経営の精神と共通しており、「株主資本主義」よりもすぐれていると信じる。「公益資本主義」の拡大で日本資本主義の再生を期したい。
国家の歴史を振り返ると、大きな苦難に直面した人々の創造的レスポンスが苦難を解決し、国家を興隆させ、惰性と安逸が国家を衰亡させてきたことがわかる。日本が直面する困難な諸課題を新たな創造の材料としたい。
(令和4年11月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |