いずれもかなり以前に行われた識者の方々の発言です。
現下の、ロシアによるウクライナ侵略や我が国周辺におけるロシア・中国・北朝鮮による予断を許さない様々な活動の加速度的増加。
我が国の平和と独立・国民を守るため、遺漏の無い諸施策の策定が急務になっています。
そんな中で読み返してみました。長くなりますが、引用します。(筆者抜粋)
(1)「国際関係を考える場合に大切なことは、日本の理想とか方針とかを一方的に決めて、国際情勢はそれに都合よくなるだろうということを期待するというのではなくして、国際環境について冷静な情勢判断をもって、その流れを断ち切って、その流れの中で現実的な方法でもって国益の伸長と国家理想の実現を図るということであると思うのであります。・・・日本の外交と同じく防衛も自主的でなければならないことは言うまでもないことであります。日本が自ら守る決意があって初めて日本とアメリカとの同盟というものが成り立つのでありまして・・・・・・自分が一方的に決めた、主観的、あるいは感情的な目的の上に立ってものを考えるのではなくして、あくまでも客観的な情勢判断の上に立って民族の安全を考えることであると思うのであります」(牛場信彦)
(2)「インドの首相ネール氏が或る機会に、平和について最も多く語るものが必ずしも最も平和に熱心なものとは限らぬ、といったということを外国の新聞で読みました。私はそれを甚だ味わうべき言葉と思いました。私は平和について多弁であるものが平和に不熱心であるとは思いません。ただ、今日口に多く平和を語らないものも、心には切々として平和を願っていることを、今特に言いたいのであります。
然らばその平和はいかにして護られるか。
一つには、人間尊重の精神に基づき、世界各国民の相互理解のいよいよ進められることによって、
一つには、賢き警戒と適切なる防備の用意を怠らないことによって、である。世界の平和はただ力のみによって護られるものではありません。また、力のみによって護られて好いものでもありません。これは吾々の常に心しなければならぬところであります」(小泉信三)
(3)「真正の平和を欲する私どもは、このような諸々の局地戦争のよって来る原因をつぶさに研究し、その原因と起因を十分に見極めなければなりません。その際、大事なことは原因と結果を混同しないことであり、また戦争に結びついた事実発生の時間的前後を十分に見なければなりません。そして、戦争の発生の原因は異なっておりますけれども、ここで確実に申せますことは、元来他の国に属する領土を、武力行使の結果として占領し続けることは占領国の権威を高める所以ではなく、また占領国自身の広い意味での安全を保障するものでもないということでありましょう。
・・・国家と民族の興亡の歴史において、武力のみ強くして、国民は貧困であり、文化の無い国には、常に衰退が待っておりました」(法眼晋作)
(4)「私益の追及は、それがよい形で成されれば、必ずや公益の達成につながる・・・私はあなた方に、日本のためと思って防衛にたずさわれなどとは、言いたくありません。でも、あなた方自身の才能を発揮するのに防衛にたずさわるのが適していると思えば、それに人生を賭ける価値はある、とは言います。
相手のためであるという想いだけでやると、その相手が認めてくれなかったりすると腹が立つものです。しかし、自分のためにやると思えば、そうはならないでしょう。なに、私益のよき追及は公益の達成に通ずる、と思えばよいのです。そして、この考え方が正しいことは、歴史が実証してくれています」(塩野七生)
(5)「本当に平和を願うなら片方に武力、もう片方に平和交渉を車の両輪として併せ持たねばならないということです。他力をあてにせず自らの武力をバックにもってこそ平和交渉は成功するし、そのバックなしには失敗するということを、私は著作をすすめながら思い知らされました。・・・戦うための武力ではなく、戦わないための武力、戦争のための武力ではなく、平和のための武力が必要だということを、私は私の仕事を通じて思い知りました」(上坂冬子)
(6)「真剣は絶えず手入れをしておかねばなりません。またそれを使う者は、剣を振るう業をその極限にまで鍛えておかねばなりません。しかもなお、鍛えた腕があり、研ぎ澄ました剣があろうとも、剣は抜かれることがないのがよいのです」(三浦朱門)
ここまで読み進めてくださった本紙読者の皆さんの中には、どこかで耳にしたり読んだことがあると思われた方もおられるのではないでしょうか。
そうです。いずれも防衛大学校卒業式における来賓としての祝辞です。(「戦い好まば国亡び 戦い忘れなば国危うし」三浦朱門編 2001年2月光文社刊)
6月7日、政府は所謂「骨太方針」を閣議決定し、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と明記しました。防衛費増額の具体的な目標水準については明らかにされていませんが、NATO諸国がGDP比2%以上を目標にしていることを例示しており、現在1%程度の比率を2%へ引き上げて行くことを志向するものと思われます。
これらも踏まえ、2023年度予算概算要求の取りまとめ、年末の「国家安全保障戦略」・「防衛大綱」・「中期防衛力整備計画」の改定、2023年度政府予算案策定に向けて作業は一段と加速され、参議院選挙後の秋ごろからは活発な与党協議も始まることでしょう。
そんなとき、今も決して風化していない先達の皆さんの言葉に、現職の皆さんが触れて頂くことも意義があるのではないかと思いました。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |