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自衛隊ニュース   2009年7月15日号
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彰古館 往来
陸自三宿駐屯地・衛生学校
シリーズ 89
衛生徽章コレクション
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 現在、我々が目にする衛生関係のシンボルマークは、杖に絡んだ蛇のマークがよく知られています。
 元々はギリシャ神話が原点で、医の神アスクレピオスの杖と、その僕の蛇がモデルとなっています。
 その娘ヒギエイアが衛生の女神で、衛生(Hygie-ne)の語原となっています。
 彰古館に現存する、各国の医学書にも、この衛生のシンボル徽章が書かれています。
 お国柄か、それぞれ微妙にデザインが異なっています。ここに御紹介するのは、第一次世界大戦時の戦時医療関係史料に記載されていたものです。中には軍の公的機関ではなく、医学書の出版社のモノグラムも含まれています。
 同年代のドイツ、フランス、旧ソビエト連邦などは、文化圏の違いからか、杖と蛇の徽章は意識的に使用していないようです。
 (1)はアメリカ国防省のレポートの表紙に記載されていたもので、蛇が2匹おり、羽が生えていますが、これは神話とは無関係で、単にデザイン上の格好良さから制定されたようです。ギリシャ神話では、通信と商業の神ヘルメス意匠です。
 (2)はアメリカ陸軍衛生部の徽章で、国防省のものと同一のデザインです。
 (3)はアメリカ陸軍歯科学校の徽章、(4)はアメリカ陸軍医科学校の徽章で、同じ意匠のバリエーションです。
 (5)はアメリカ海軍の徽章ですが、神話とますます遠くなり、アメリカ国鳥の鷲と、海軍伝統の錨とロープの意匠で、杖も蛇も使用されておりません。
 (6)〜(10)は同年代のイギリスの医学書に記載されたもので、羽付きの蛇2匹もあり、羽根無しの蛇1匹もありで、統一性はないようです。
 (11)は珍しくドイツの医学書にあったもので、蛇は1匹となっています。
 蛇が1匹の場合の共通点は、蛇の頭が向かって左を向いていることですが、何らかの不文律があったのかも知れません。
 わが国の軍医部では、明治5年(1872)2月10日に制定された(12)の赤一文字の衛生徽章があります。赤十字加盟後に、縦線を追加して赤十字マークにする想定で考えられたものでした。
 (13)は明治19年(1886)3月1日に制定された銀製の「蛇杖」で、ギリシャ神話そのままの意匠です。ただし、なぜか蛇は右を向いています。
 明治38年(1905)7月11日には各職種共通の襟章の兵科色で表すものとなり、軍医部は「深緑」が制定されています。
 昭和13年(1938)5月31日には、職種徽章はM型の胸章に変更になり、兵科色は深緑が踏襲されています。
 現在の自衛隊の衛生職種徽章(16)は蛇が2匹いますが、これは2人の衛生科隊員が協力し合って救護活動を行う様子を表しているそうです。陸上自衛隊衛生学校の教育理念は「仁」ですが、この字も「人が二人」で助け合うという意味を持つそうです。
 衛生機関の徽章というと、つい赤十字マークをイメージしますが、これは軍と赤十字社だけが使用できるものです。各国の衛生機関は、独自に衛生徽章を制定していたのです。

(1)アメリカ国防省で使用した衛生徽章
(2)アメリカ陸軍の衛生徽章
(3)アメリカ陸軍歯科学校の徽章
(4)アメリカ陸軍医科学校の徽章
(5)アメリカ海軍の衛生徽章
(6)アメリカ医学書記載衛生徽章
(7)イギリス医学書に記載の衛生徽章1
(8)イギリス医学書に記載の衛生徽章2
(9)イギリス医学書に記載の衛生徽章3
(10)イギリス医学書に記載の衛生徽章4
(11)ドイツ医学書に記載の衛生徽章
(12)明治5年2月10日制定の赤一文字徽章
(13)明治19年3月1日制定の蛇杖徽章
(14)明治38年7月11日制定の深緑の襟章
(15)昭和13年5月31日制定の衛生部徽章
(16)現在の陸上自衛隊の衛生職種徽章


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