防衛省は小平学校長の榊枝宗男陸将補を5月24日から6月4日までの約2週間、エジプト、カイロの平和維持活動(PKO)センターで実施されたアフリカ連合上級幹部養成コース(対象:准将、大佐レベルまた同等の文官)のメンター(上級講師)として派遣した。演習はアフリカと同様の諸問題を抱える架空の国「CARANA」を題材としてPKOミッションの展開についてロールプレイ方式により実施。榊枝将補は連日朝夕の各1時間のミーティングで被教育者に自己の経験を基に指導を行うとともに「ルワンダ難民救援」に関する講義を行った。同将補は在エジプト防衛駐在官当時の1994年9月、国連ルワンダ難民支援団司令部(UNAMIR)のG―2(情報部)へ連絡官として派遣され、旧ザイール領ゴマ宿営地と紛争当事国であったルワンダの首都キガリで勤務。また、その後、陸幕調査部調査2班長(国外情報担当)、同防衛部運用課国際協力室長として国連ゴラン高原PKO(UNDOF)や初の自衛隊国際緊急援助隊のホンジュラス派遣に携わった。榊枝将補は自己の経験を生かし「日本流の支援、住民・被災者の目線と同じ目線で復興支援をすること。難民の心をわが心として支援すること」を強調し教育を実施した。なお、本邦からメンターとして元東ティモール国連事務総長特別代表の長谷川祐弘氏(法政大学教授)が参加した。
〈アフリカPKO支援の必要性〉
アフリカPKOは、これまで国連が派遣したPKOの約64%を占め、アフリカは世界の紛争多発地域と見られていたが、近年紛争の数は減少しており、大部分の国は平和の定着と復興への努力に励んでいる。ただし、一方ではスーダンやソマリア、コンゴ民主共和国東部など一部の国々においては事態がより深刻となっている。昨年6月30日、福田総理(当時)と藩国連事務総長との会談において、スーダン国連PKO(UNMIS)への自衛官2名の派遣とこのPKOセンターへの支援を発表した。わが国が軍事に関係する支援(ソフトの分野)の諸制約を越えて行うことが、国連やアフリカ諸国から歓迎され、今回の派遣に繋がった。
〈日本からのメンター派遣の評価〉
スアード・シャラビーカイロPKOセンター所長は「これまでのアフリカにおけるPKOトレーニングは欧米諸国の主導で行われてきたが、榊枝将補はこれに対しアジアの風を吹き込んでくれたことは、アフリカにおけるPKOトレーニングを新たな段階に進める上で非常に重要なことであり心から感謝する」との評価を述べた。
また、被教育者の所見では「中国のようにアフリカに対して物量攻勢を仕掛けてくるような方法ではなく、アフリカの自主性を尊重し日本独自のアプローチでアフリカ支援を行う手法に好感を抱いた」「日本の対アフリカPKOトレーニングへの資金援助は広く知られ感謝しているが、今回、日本の将軍からPKO任務への熱い想いを聞くことがより一層日本への理解と感謝の念が大きくなった」「日本のアフリカへの貢献に感謝する。日本のルワンダ難民支援のケーススタディは、占領者が平和構築の現場を邪魔しないようにするにはどうすればよいのかについて考える機会となった。また、我々の側でもなすべきことが多くあることに思いを致した」など、アフリカ連合待機軍の要員(旅団長、参謀長クラス)の好意的な意見が散見された。
今後のアフリカPKOセミナーへのメンター派遣
今回のコースは准将、大佐クラスの上級者を教育・評価するものであったことから、国連より将官クラスのメンター派遣の要請がなされた。
これまで自衛隊の将官が単独で海外に赴いて業務を遂行するような機会はほとんど見られなかったが、自衛隊が1992年のカンボジアPKO(UNTAC)に始まったPKO活動やPKOトレーニングの分野で国際社会における実績を積み重ねてきた中、今後こうした活動の場や国連からの要請が多くなるであろう。国際社会におけるわが国、自衛隊の存在感を高めるため、今後ともメンター派遣の継続が期待されている。 |