7月10日(日)は、参議院議員選挙の投票日。
18歳を迎えた新成人隊員をはじめ自衛隊員の皆さんには、様々なご都合もあるかと思いますが、まずは最優先で投票に行きましょう。
当日、どうしても行けないことが分かっている方は、「期日前投票」の活用です。
かけがえのない一票、国民に与えられた大切な権利を必ず行使しましょう。
前回(2019年)の参議院議員選挙の投票率を見てみますと、わずかに48・8%。その前(2016年)は54・7%。このような低率に留まっていたのでは、より良い政治は期待出来ません。変えられるのは、国民一人ひとりの投票行動の結集を置いてほかにはありません。
今ほど内外諸情勢が不安定で混とんとし、将来の見通しが立ちにくく、未来に夢を抱き難いときは無いのではないでしょうか。
参議院議員選挙に向けて、マスコミ各社がこぞって世論調査を実施しています。
今回、投票に当たって重視することとしては、景気回復や雇用、年金・医療・介護などの社会保障、外交・安全保障、物価高政策、新型コロナ対策、子育て・教育、エネルギー・環境、憲法等が挙げられています。
特に今回の特徴は、ウクライナに対するロシアの侵略行動や台湾有事の懸念、北朝鮮の動向などに対する関心の高まりを受けて、外交・安全保障を重視する比率が大変高くなっていることです。防衛力の抜本的強化・防衛費の大幅増額・反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有などについて、どう考え、行動して行くか。
各党の公約や候補者の主義・主張、歩んで来た道や活動、人柄等について、可能な限り調べることなどを通じて、自分で判断し・自分の考えをつくり出し、投票に臨みましょう。
「伝えよう 自分の考え 未来のため」(香川県が今回の参議院議員選挙の投票率向上に向けて公募し、採用された高校1年生の標語‥5月17日KSB瀬戸内放送)
こうした中、6月19日朝、僕は日本経済新聞2面に掲載された「死が約束する安全保障」との見出しを打った佐藤 理記者の署名入り「風見鶏」欄の冒頭、書き出し部分を読んで戦慄を覚えました。
曰く、
"「おまえが死んだ時のかかとの位置が次の国境線になる」。陸上自衛隊ではこんな言葉がある"
まるで死ぬことを前提にしているような言葉。陸上自衛隊ではこんな言葉があるはずがありません。僕は、早速所属する隊友会支部の陸上自衛隊OBの皆さんにこの記事を見て頂きました。皆さん揃って否定しています。
読者や国民の皆さんが、陸上自衛隊や陸上自衛隊員に対して、ひいては自衛隊そして自衛隊員全体に対して、間違ったイメージを抱いてしまうことを心底から憂慮します。
記者は続けて、
"自衛官なら入隊時に「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」と記した宣誓書に署名する" と記述しています。
これは、「服務の宣誓」の一部の紹介ですが、この宣誓書に署名するのは、自衛官の皆さんだけではありません。防衛省・自衛隊には、自衛官の皆さんのほかに約2万1000名の事務官・技官・教官等の皆さんがいます(令和3年度「防衛白書」)。彼らは、自衛官の皆さんと同じ自衛隊員なのです。彼らも、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」宣誓書に署名し、日々任務に取り組んでいることを、広く国民の皆さんには知って頂きたいと思います。
そして記者は、
"防衛は平時には意識しない死と隣り合わせだ" と記しています。
このこと自体は、既に4か月を過ぎたロシアの侵略行為によって多大の死者を出しているウクライナ軍が、自国及び自国民防衛のため戦い続けている姿からも意識せざるを得ません。
しかし、ウクライナ軍人もそうでしょうし、自衛隊員の皆さんも同じだと思うのは、いざというときには、死をも辞さず責務の完遂に務める覚悟は出来ていても、それは、決して死ぬことを前提にしているものではないということです。
敵と対峙する以上、死は覚悟しなければなりません。しかし、最後まで生き残ることを前提に、そのためにはどうすればよいのかを考え・教育し・訓練しているのではないでしょうか。死なないように頑張るのです。
旧海軍の話ではありますが、かつて読んだ作家阿川弘之さんの著書「井上成美」(1986年9月 新潮社刊)の中にあった井上成美の述懐のような記述を思い出しています。
「精神教育は、江田島の方がまさっていると見た。機関科将校の戦闘配置は艦底のボイラールームで、いざの時脱出生還が難しいせいか、「従容として死につけ」ということを、機関学校の教官たちがむやみに強調する。兵学校教育の伝統にそれは無かった。大事なのは職務の遂行で、その結果が死に終るとしても、死を美化し、従容を衒(てら)う必要は無いと教えている」
今後、防衛力の抜本的強化や防衛費の大幅増額が進められて行く中で、国民に対する自衛隊員の皆さんの責任は一段と大きくなって行くことは必定です。それは国民の自衛隊員の皆さんに対する期待の高まりであり、それだけに厳しい目が注がれることもあると思います。
現在の防衛大綱は、次のように述べています。「防衛力の中核は自衛隊員であり、自衛隊員の人材確保と能力・士気の向上は防衛力の強化に不可欠である。これらは人口減少と少子高齢化の急速な進展によって喫緊の課題となっており、防衛力の持続性・強靭性の観点からも、自衛隊員を支える人的基盤の強化をこれまで以上に推進して行く必要がある」
組織は人。自衛隊はその典型です。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |