「あ、美味しい」。筆者が「牛肉じゃが」を口にした時の率直な感想だ。
令和元年度に8年ぶりに刷新された「非常用糧食」の記者試食会(4月21日・防衛省)には、陸自が企業と共に開発した自慢の味が並んだ。
有事や災害派遣用に備蓄される「非常用糧食」は自衛隊の歴史と共に歩んできた。昭和29年に旧軍仕様の「乾パン」から始まり、同39年には主食・副食を組み合わせた缶詰タイプに、平成23年には携行性や補給性等に優れた現在の軽包装型(レトルト)になった。加工技術の向上と隊員の要望を取り入れながら「非常用糧食」は進化してきた。
栄養素量と味の改善
ウクライナにも無償提供
今回のリニューアルの契機は平成23年の「東日本大震災」。長期にわたる災害派遣においては栄養不足が大きな課題となったほか、旧来の味付けが「醤油一辺倒」で飽きが早く隊員の食欲減退を招いていた。食は任務完遂の源。そこで陸自は企業と共に改善に着手。鉄分、カルシウム、ビタミンB1等隊員の活動に必要な栄養素量が大幅に向上。不足分は別途、栄養補助ゼリーなど増加食で補完する。ちなみに全国には約150名の栄養士・栄養管理士が隊員の食に関する健康をサポートしているそうだ。
飽きさせないための工夫も。メニューは新作13種を含む全21種。1日3食、1週間を別献立で食べることができる。中身は和・洋・中、肉・魚とバリエーション豊か。献立表に目を落とすと、主食には新たに「ひじき飯」、「白飯(栄養強化米)」、「チキンライス」、隊員熱望!の「ナポリタン」や「パン」が、副食には同じく「さんま甘露煮」、「鶏だんご野菜あんかけ」、「ビーフシチュー」等が名を連ねる。さながら町の定食屋さんのようだ。
種類だけではない、味も改善された。下味がしっかりとついていて、肉も柔らかく決して大味な感じがしない。食欲をかきたてられ、料理をしない著者でも「ちゃんと手間をかけているなぁ」と感心した。ただし、味はもちろん「濃いめ」である。
非常用糧食は3年間保存で3年目に消費されるため、隊員が実際に食べるのは来年以降になる。また、ロシアの侵攻が続くウクライナにもナポリタン、ボロニアソーセージ等が11万食無償提供されており、現地の評判も上々のようだ。 |