昭和29(1954年)年7月1日に発足した防衛庁・自衛隊は、本年7月1日、創設70周年を迎えました。(2007年1月9日、防衛庁は防衛省に移行。)
僕が防衛庁・自衛隊に入ったのは、発足から18年目・今から半世紀も前の昭和47年(1972年)。沖縄県の本土復帰や日中国交正常化がなった年でした。
今日の防衛省・自衛隊に対する国民の信頼や期待の大きさを目の当たりにするとき、感慨もひとしおです。自衛隊OBの一人として、国民の一人として、これからも、是非、こうあって欲しいと思います。
防衛庁・自衛隊に入るべきかどうか迷っていた当時の僕たちに、昭和30年に防衛庁1期生として採用された上野隆史さん(故人)が語った言葉が思い出されます。
曰く、「わが国の安全保障政策について、極めて鋭角的に対立する様々の議論がくり返され、現在もまだ続いている。一国の国防政策についてこのように大きな国論の分裂と混迷は、諸外国にその例をみない。・・・今や戦争体験の無い世代がわが国の安全保障政策に携わり、着々政策決定の中枢を占めんとしている。・・・とらわれた感情論、情緒論とは生まれながらにして無縁の若い優秀な諸君が、複雑な国際関係、国内情勢を冷静に分析判断し、冷厳な国際環境の中にあるわが国と子孫の安全を将来に亘って確保するため、国防の中枢たる防衛庁に集い来らんことを望むや切なるものである。」
更に、昭和31年採用の2期生西廣整輝さん(故人)は、このように僕たちに言われました。
「私は制服の人達が、日本に対する侵略が現実のものになった場合に、どのようにして戦闘に勝ち、侵略を排除するかということを中心にして防衛を考える立場にあるのに対し、私達シビリアンは、どうすれば戦争の生起を抑止しうるかといった観点から、国の安全保障を考えていくべきものだと思っています。
また、防衛問題では、軍事という特殊でかなり専門的なことを扱うので、それを国民一般にわかり易いものにして伝えることが私達の仕事であり、同時に国民一般の世論を、あるいは外交、経済、社会等各般の政策上の配慮を、具体的に防衛政策に反映させることが私達の重要な役割であると考えています。」
改めて防衛庁・自衛隊草創期の皆さんの原点の思いに対面する時、今も身震いを禁じ得ません。
木原防衛大臣は、防衛省・自衛隊発足70周年にあたって防衛大臣談話を発出しました。(2024年7月1日 筆者抜粋)
「・・・発足直後、木村篤太郎初代防衛庁長官は、職員は皆、防衛庁・自衛隊の「新しい伝統」を自分たちで作っていくという希望に燃えていると語りました。・・・今日、1つの節目を迎えるに当たり、木村長官が語った「新しい伝統」とは何かと考えました。
それは、いついかなる時も「国民のための自衛隊」である、ということではないかと思います。
今では、国民の9割が自衛隊を信頼していると言われていますが、それは、隊員一人ひとりが、この「新しい伝統」を胸に、ひたむきに任務に励んできたからこそです。
現在、我々は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中で、国民の命と平和な暮らしを守るため、防衛力の抜本的強化に取り組んでいるところですが、これからも国民の信頼と期待に応え続けられるよう、防衛大臣として隊員諸君と共に一層努めていく所存です。
・・・任務が増大する中で、我々自身もまた、新たな伝統を作っていかなければなりません。」
現職の防衛省・自衛隊の皆さんには、まず健全な社会人として、そして、平時においても、いかなる事態の生起に際しても、誇りと謙虚さを兼ね備えた真に精強な自衛隊員として、国民の負託に応え得るよう、使命感を持って精進・訓練を続けて頂きたいと思います。
「防衛省・自衛隊がその実力を最大限に発揮して任務を遂行するためには、国民の支持と信頼を勝ち得ることが不可欠である。そのためには常に規律正しい存在であることが求められている。」(令和5年版 防衛白書) 当然です。
しかるに、防衛省・自衛隊を巡って、我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要である「特定秘密」の違法・杜撰な取り扱い、裏金をプールしていた防衛産業との癒着、「手当」の不正受給、そして、自衛隊員相互の信頼関係を失墜させ組織の根幹を揺るがすことから一切許容しないと誓ったはずのハラスメントについて、更には最高幹部の去就に係る報道までもが、連日各紙・テレビで報じられています。いずれも、残念とか遺憾では済まされない、断じてあってはならない事ばかりです。
国民の信頼や期待を築き上げて行くことは、隊員一人ひとりが真摯な努力を不断に要する困難な道程です。しかも到達点はありません。常に現在進行形です。
他方・・・。
防衛省・自衛隊の皆さんの、一過性でない自浄能力を信じます!
皆さんは、常に国民と共にある国民の自衛隊の隊員なのですから!
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |