「こんなところとは、失礼じゃないですか!」
かつて「こんなところに日本人」といったテレビ番組がありました。
当時、東ティモール東端の地ロスパロスにて、村人の皆さん達の保健・衛生向上のために走り回っていた彼女。真っ黒に日焼けしたクリクリ瞳。優しく逞しく、そして涙もろい看護師さん。急患発生の連絡を受けるやいなや、いち早く村人のもとに駆け付け、限られた手段の中で、懸命に尽くす。そんな彼女は、いつしか地域の皆さんから受け入れられ、愛され、人々は、自分の娘の帰宅を心待ちにしているように彼女の訪問を喜び、一緒に食事を作って食べたり、何でも相談したり、逆に、彼女の悩みにも親身に相談に乗ってくれました。泣いたり笑ったり、婿さんの候補を紹介するからこのままここにいなさいとまで言われるようにもなりました。
彼女は、番組のタイトルを聴いただけで、即座に取材申し込みを断ったのでした。厳しい環境の地で頑張る愛娘を大変心配しながらも応援されていたお父さんは、彼女から「取材拒否よ!」と聞いてとても残念がったとのこと。・・・実は、彼女を推薦した張本人は僕。
彼女の「こんなところになんて、ひどい!」は、その後の僕を律する言葉になっています。
約4年半、東ティモールの皆さんと暮らした彼女は、その後も、元々の看護師の資格を活かし、現在は、かつて山谷と呼ばれた簡易宿所の多い地域にて、厳しい生活を送っている皆さんの訪問看護に飛び回っています。それぞれ事情を抱える彼らに飛び込み、弾む会話。
「あんた,ズバズバ耳の痛いことを言うね。でも、あんたが来ると元気になるよ。これ食べろや。取っておいたんだ」そう言って、彼女にミカンやお菓子をくれる人は多い。お酒をくれる人もいます。
彼女だけでなく、自衛隊員・ご家族の皆さん、そして本紙読者の皆さんの周りには、分野は異なれども、人々にとことん向かい合い、寄り添いながら草の根の活動を続けている方が、きっといらっしゃるのではないでしょうか。
さて、昨年9月に東ティモールから初めての技能実習生が来日してから半年が経ちました。関係の皆さんが対応に苦慮されていることも伝わって参ります。
先日、彼女からこんなメールを頂きました。
「技能実習生の皆さんの受け入れをしている方々も、彼らとの文化の違いに、戸惑いや、時に怒り、悲しみを感じることもあるでしょうね。
私は、初めてティモールに行った時、日本社会の感覚を持っていってしまい、「馴染めないなら帰れば?」と言われたことは忘れません。
その土地の価値観や文化を理解することはとても大事だなぁと思います。もちろん、自分の国の価値観、文化を捨てなくても良くて、分かった上で、合わせるようにしてみたり、話し合ってお互いへの理解に努めたりするという行動が大事なんだろうと思います。
ティモール人がのんびりしていて、適当で、おおらかであったことで、私は随分助けられましたし、同時に悩まされ、泣かされました。(笑)懐かしいです。」
・・・少子化が凄まじい勢いで進んでいます。2月27日に厚生労働省が公表した2023年の出生数(外国人を含む速報値)は、前年から5・1%減の、わずか75万8631人。過去最少を記録。減少ペースは想定より速く、このままでは2035年には50万人を割るとのこと。
思えば、終戦直後という特殊な時期だったとはいえ、僕たち団塊世代(1947年〜1949年生まれ)の出生数は、概ね260万人台(最多は1949年の269万6638人)。今や、我が国の出生数はその3分の1弱。
政府は、異次元(?)の少子化対策に取り組んでいます。しかし、労働力人口が急速に減少して行く中で、技能実習生制度に代わる育成就労制度あるいは特定技能制度、更には正社員としての採用等を含め、外国からの来日者数が加速して行くことは必定です。
それに伴い、バックグラウンド等を異にする皆さんと僕たちの出会いは、益々身近なものになって行くことでしょう。
こうした皆さんをはじめ、これから様々な機会・場面で出会う人々と僕たちはいかに向かい合って行くか・・・。
春4月。スタートの時期です。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |