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スペーサー
自衛隊ニュース   1071号 (2022年3月15日発行)
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読史随感
神田淳
<第97回>

ロシアの被害者意識について

 ロシアがウクライナを一方的に軍事攻撃し、世界から強く非難されている。ロシアの強引な軍事力行使に正当性はあるのか。何がロシアをここまでの行動に駆り立てるのか。独裁者が晩年よく陥る痴呆化現象がプーチンにも起きているのではないか、と疑いたくなるほど今回のロシアの行動は異常に感じられる。
 「ロシア(当時はソ連)は大国だが、ロシアには歴史的に弱者意識がある」と、私の知る外交官(故人)が、かつて語っていたのを思い出す。ロシアは弱者意識の強い、実は怯える大国であり、ウクライナというロシアの兄弟のようなスラブ人の国がNATO加盟を望み、加盟手続きを進めようとするなど、ロシアにとって恐怖以外の何物でもない。これを認めると自国の存立があぶなくなるゆえ、武力を行使してでも阻止する行動に出たのであろう。
 弱者意識とともに、ロシアが西欧諸国に対して強い被害者意識をもつ国であることは、よく言われることである。ロシアには強大な西欧諸国に常に圧迫されてきたとの歴史意識がある。ロシアは何度も西側から攻め込まれた。19世紀にはフランスナポレオンの大軍がロシアに攻め入り、モスクワを占領。ロシアは奥地に逃げ、モスクワを焦土としてナポレオン軍を追い払うことができた。第一次世界大戦ではドイツがロシアに侵攻。主力のロシア軍はドイツ軍に壊滅させられた。そしてロシア革命が起き、帝政ロシアは滅んだ。第二次世界大戦では、ナチスドイツの大軍が独ソ不可侵条約を破ってソ連に侵攻。ソ連は独ソ戦を戦い抜き、3千万人という膨大な犠牲者を出してかろうじて大戦の勝者となることができた。
 1985年ゴルバチョフがソ連の最高指導者となり、ペレストロイカ(改革)を進めた。東欧諸国に民主革命が起き、社会主義国は次々に消滅。東ドイツは西ドイツに吸収され、統一ドイツとなった。そして1991年ついにソ連も崩壊してしまった。共産主義イデオロギーを捨てたロシアで、「人類普遍の価値」、「民主主義」などが強調されたが、これらの価値で国民を統合することはできなかった。出現したのは、「屈辱の1990年代」ともいうべき混乱と無秩序、無政府状態、経済凋落、そして民主主義へのアレルギーだった。
 この時期のロシアの苦しみも、欧米のせいだとの被害者意識がロシアには存在している。東欧の民主革命、ソ連の崩壊を西側諸国の陰謀と見る見方さえある。ソ連が崩壊したとき、NATOとワルシャワ条約機構は同時解消するはずだったが、NATOだけ存続し、旧東欧諸国とバルト3国まで拡大している。プーチンはNATOに騙されたと思っている。
 被害者意識は人の深層意識に沈潜し、しばしば非理性的行動の温床となる。それは過剰な自己防衛や加害者意識なき加害者となって現れる。
 世界のもう一つの大国中国には、アヘン戦争以来150年、世界(特に欧米と日本)から屈辱を受けたとの意識がある。それは中国が弱かったせいであり、今中国は強くなったので、150年の屈辱をそそぎ、中華民族が世界にそびえ立つ本来あるべき世界秩序に変えるというビジョンを習近平はもっている。中国の屈辱意識とロシアの被害者意識は同じではないが、共通する面がある。
 ウクライナに対するロシアの軍事力行使に対し、非難するだけで軍事力を行使できない欧米諸国をみて、中国はどう考えるか。台湾と尖閣への軍事侵攻を決断するか。
 日本はよほどしっかりしなければならないと思う。
(令和4年3月15日)

神田 淳(かんだすなお)
 元高知工科大学客員教授。著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii-nihon.themedia.jp/)などがある。


雪月花
 以前に自衛官OBの著書刊行、メディアへの露出が顕著になっていると書いたが、今度はまた衝撃的な1冊が発刊された。元陸自東方総監の渡部悦和さんの「日本はすでに戦時下にある」(ワニ・プラス)だ。最近、台湾有事は日本の有事とか日本は中国の自治区になるとかの論調がかまびすしいが、渡部さんの「日本は…」は元自衛官として部隊実体験を通じ肌で感じていたことと最近の動向を合わせ研究しているので迫力がある。表紙の帯には「目に見えない戦い」は今この時も進行していると書かれており、本章に入る前の序文からも緊張感を覚える。20年ほど前に話題になった「超限戦」(目的のためには手段を選ばない、制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する)。これを国家が実行するとどうなるか?ロシアのマフィアのような誘拐、暗殺、偽情報の拡散、ハッカーを使った銀行システムの襲撃、爆弾の投擲などなんでも可能になる。これが現実になりつつあると渡部さんは危惧している。さらに「超限戦」や「ハイブリッド戦」を超える「全領域戦」という四文字熟語を作って警鐘を鳴らしている。「中国の政治戦」「化学兵器との戦い」「サイバー戦」「情報戦」「宇宙戦」「電磁波戦」の脅威などや日本の進むべき方向などを解りやすく書いているが、読み進むに連れて我が国の体制が気懸りになって来る。まさに本書の発刊3週間後にロシアはウクライナに軍事侵攻した。渡部さんは15年前に1年間東京地方協力本部長を務められているが、東大卒の地本部長としてマスコミにも取り上げられ関係者の間で注目されていた。一つのセクションで問題が起きた時には地本の全組織を挙げてそれに取り組む一極集中作戦で対応したり、業務の計画性と統率力には驚くほどの力を発揮した(当時の副本部長)。また渡部さんは東方総監の時には東方総監語録集として「進化無限」を著わされ筆者にも寄贈していただいたが、同氏の人生観と思わせる内容に感銘を受けたことだった。

自衛隊高級課程
 3月4日、目黒地区に所在する統合幕僚学校(学校長・田尻祐介陸将)、陸上自衛隊教育訓練研究本部(本部長・廣惠次郎陸将)、海上自衛隊幹部学校(学校長・真殿知彦海将)、航空自衛隊幹部学校(学校長・影浦誠樹空将/当日は副校長・秋山圭太郎空将補が代理出席)は、自衛隊高級課程卒業式を合同で実施した。
 式には中曽根康隆政務官、山崎幸二統幕長、吉田圭秀陸幕長、山村豊海幕長、井筒俊司空幕長が陪席。部外来賓は招かず、国歌は海自東京音楽隊による吹奏のみとした。
 今期の卒業生は、46名(陸上17名、海上12名、航空14名、留学生3名)。対象となる1佐または2佐が、昨年3月に各自衛隊の高級課程に入校し高級幹部としての研鑽を深めた。10月からは「第31期高級統合課程」で統合運用に関する幅広い知識・技能を修得した。課程期間中、国内現地研修では当初の予定通り南西地域等を訪問。フランス駐在武官を招いたパネルディスカッションも行った。
 課程修了申告は学生長の幸津真悟1陸佐が行った。田尻統幕学校長は式辞で、ロシアによるウクライナ侵攻と同じ事が我が国の安全保障環境でも起こり得るとし、「各種事態等への対応に当たっては、強い意志と情熱を持って各部隊等における任務遂行の原動力となるとともに、昨今の急激な情勢変化へ適合するために新領域への対応を含む統合運用体制への更なる強化のけん引者となってもらいたい」と要望した。

自衛隊中央病院
職業能力開発センター
 公務又は通勤災害による負傷や疾病で障害を負った隊員の円滑な部隊勤務や社会復帰に向けた更生指導業務を実施する自衛隊中央病院(三宿)職業能力開発センター(センター長・脇阪裕城)で3月3日、第66期生4名(陸自)の修了式が行われた。
 修了式は、新型コロナウイルスの感染防止のため部外の来賓は招かず、中央病院職員のみで開催された。
 国歌演奏、センター長からの修了証書授与後、学生長がセンターでの研修修了を申告した。
 続いて、執行官の福島功二病院長が登壇。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、現地訓練等が中止になる等厳しい状況にあったことや開設以来最少の2名から研修が開始したことに触れ、「職業能力習得への意欲を失うことなく、全員が前向きに研修に励み、立派な成果を修めることができた」と労った。
 また、今回は人事教育局齋藤敏幸給与課長による祝辞の映像が会場内に映し出され、研修生に対し、研修修了のお祝い等の言葉を述べられた。
 最後に学生長が研修生を代表して、病院長をはじめ病院職員等に感謝の気持ち等を述べた。
 研修生は、部隊に復帰する者と引き続き研修を継続する者とそれぞれの道を進むことになる。
 職業能力開発センターでは、「部隊に復帰する者については、習得した知識・技能を最大限発揮し、部隊において一層の活躍することを期待する」としている。

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