新年になって、日本が直面している最重要課題は何であるか、改めて考えた。日本は民主主義の国であるから、政治指導者でもない一国民である自分がこうしたことを考え、発言するのは無意味でないと信じたい。
現代の日本の最大の問題は国の安全保障だと思う。日本は国の独立不羈が脅かされている状態にある。中国が強大化し、覇権国家化し、日本を脅かしている。日本の沖縄県の尖閣諸島を中国の領土だと主張し、主権と海洋権益を断固守る、と言う。尖閣を軍事力で日本から奪う作戦を公然と論じている。中国海警局艦隊の尖閣海域への侵入回数を年々増やし、日本漁船の活動をできなくしている。こうした実績を重ねて、尖閣諸島の実効支配が中国にあると宣言し、武力行使の正当性を国際的にアピールするのではないか。
習近平の中国は欧米流民主主義を完全に否定した。中国共産党による独裁的支配を「中国の特色ある社会主義」と言い、これを最上とする。すべて共産党が国家と国民を指導する。国民に政治的な自由はない。こうした中国が驚異的に経済成長し、軍事力を強大化して、世界秩序を変えようとしている。
日本を含む西側諸国と中国との対立は、価値観の対立である。自由、民主主義、法の支配、人権といった価値観を中国は持たない。日本は立派な自由、民主主義、法の支配する国である。独立した主権国家として、決して中国の属国のようになってはならない。そのために、日本の安全保障体制を強化する。憲法を改正し、自衛隊を国軍とし、必要な軍事力の増強を行う。日米同盟を強力に維持するが、その前提として国民一人ひとりが、国の独立は自分たちで守るという当たり前の自覚が必要である。
安全保障と同じくらい大きな日本の直面する問題は、日本の長期にわたる、経済と国力の衰退である。平成以降30年、日本は全く経済成長していない。他の先進国は年2〜3%といった普通の成長をしているが、日本だけが成長を停止した国になってしまった。世界の先進国の人々の実質賃金は、それぞれの国1997年の賃金指数を100とすると、2018年にはアメリカは115・3に増加、イギリスは126・8に増加、ドイツ118・8、フランス127・7、スウェーデン138・9と順調に増加しているが、日本人の実質賃金だけが2018年90・1と減少している。これは日本が経済成長していないことから帰結する端的な数値である。
日本だけが貧困化しているのである。そして、貧困化に歯止めがかかっていない。かつての一流の経済強国としての国際社会における存在感は、今の日本にはない。経済力の凋落が、世界における日本の地位を低下させている。
日本はなぜ経済成長しない国になったのか。原因は総合的なものだろう。よく働くこと、経営が良いこと、イノベーション力があること、技術革新に遅れないこと、国の諸制度が良く、不効率を招く不合理な規制がないこと、その結果生産性が高いこと、若者が力をもっていること、資源とエネルギーに不足していないこと、世界的な競争に負けないこと。こういったことの集積が経済力となって現れてくる。
経済大国を達成した昭和時代の代表的な経済人である松下幸之助氏の経営哲学、そしてご存命の稲盛和夫氏のすばらしい経営哲学は、なお現代の苦境を打開する力をもっていると私は思う。
(令和4年1月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii-nihon.themedia.jp/)などがある。 |