1月20日から23日、イギリスロンドン郊外で開かれた「第20回国際装甲車会議」に、防衛装備庁装備官(陸上担当)柴田昭市陸将が出席し、「日本の戦闘車両開発と次世代水陸両用技術の国際共同研究」をテーマに講演を行うとともに、最新の技術動向を収集した。この国際装甲車会議は、装甲車の運用、研究開発、調達、製造に係る軍及び防衛産業の関係者が一堂に会し、装甲車分野を専門テーマとして発表・議論するとともに、人的ネットワークを構築することを目的として開催される世界で唯一の国際会議である。20回目となった今年は、欧州を中心として50カ国以上から、各国陸軍将官を始めとする650名以上の出席者と55社以上の防衛産業関係者が参加し、防衛装備庁からの参加は3回目となる。
会議はラグビーのイングランドチームの本拠地であり、ラグビーの聖地と呼ばれている「トゥイッケナム・スタジアム」に併設された会場で開催された。柴田陸将の講演が行われた22日朝は、元欧州連合軍最高司令部副司令官で本会議議長を務めるエイドリアン・ブラッドショー卿による開会挨拶から始まった。ブラッドショー卿は「ロシア・中国の軍事力増強、気候変動・人口移動、イスラム過激派・北朝鮮・イラン問題がある中、装甲車は各種の陸上作戦で重要な役割を果たす兵器であるが、従来技術とデジタル技術の両方を融合したフレキシブルな開発が必要とされている」と述べ、聴衆に対し電磁波やサイバーを含めた領域横断作戦の中で、装甲車の研究開発においても最新の技術分野であるロボティクス・自律システム(RAS‥Robotics & Autonomous Systems)の導入が極めて重要であることを強調した。昨年に引き続き、2度目の出席となった柴田陸将の講演では、冒頭で本会議場と縁が深いラグビーワールドカップ2019の熱戦の様子を述べ、会場が和やかな雰囲気となった。
本題では、我が国周辺の安全保障環境の特徴を述べて欧州諸国との違いを印象付けた後、30防衛大綱に基づいた、「多次元統合防衛力」を支える陸上防衛力の構築の方向性について説明した。そして、それらを踏まえた、10式戦車や16式機動戦闘車の開発実績と、令和元年5月から米国と行っている「次世代水陸両用技術の研究」について国際共同研究を通じた新たな挑戦と位置付け、南西諸島等の水陸両用作戦で期待される水陸両用技術の研究への取り組みについて発表した。最後に「地域の安全と国際平和及び繁栄のために同盟国である米国や会議に参加する欧州関係国の研究開発と緊密に連携して装甲車をはじめ研究開発の更なる充実・強化を図って行きたい」と強調した。質疑応答では「10式戦車の装備構想」や「今後の戦闘車両の開発計画」に関する熱心な質問が寄せられ、我が国の装甲車開発の技術力への関心の高さを伺わせるものとなった。
また、講演のエンディングでは、「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開催について紹介し、「装甲車開発の夢の実現を目指す皆さんには、アスリートの夢の実現の場である東京オリンピックに是非お出で頂きたい」と締めくくり、会場は笑顔と歓声に包まれた。
会議は各国代表による講演以外にも陸軍高官による将来の自律型戦闘車両等をテーマにしたパネルディスカッションも行われた。また、会場内には、簡易的なミーティングスペースを設け、各国関係者間で気軽に懇談できる機会を設定するとともに、トゥイッケナム・スタジアムの周りには米軍が導入した最新のJLTVをはじめ、各国の装甲車両を展示したり、軍人の講演と講演の間には企業の開発動向のプレゼンを挟むなど内容の充実した国際会議であった。特に4日目は米陸軍AFC(アーミー・フューチャーズ・コマンド)が無人陸上車両会議を主催し、ロボット技術や自律型戦闘車両の開発等について熱心な議論が行われた。
会議への参加を終えた柴田陸将は「各国は、領域横断作戦環境下、将来の脅威を的確に予測しつつ、急速に進展する技術を積極的に取り込み、将来の戦い方の創造と戦闘車両開発に努力を傾注していることを再認識できた。特に、各国はAI技術を背景にしたロボティクス・自律システムを陸上戦闘のゲームチェンジャーと位置付けて実現に向けて戦略的に取り組み、初期段階の部隊実験も計画的に行っており、今後の自衛隊の研究開発を進めていく上で大変参考になった。また、10式戦車や16式機動戦闘車の高度な開発実績や現在行っている日米共同研究について講演して、我が国の優れた技術力を効果的に情報発信することができた。昨年に引き続き講演したことで人的なネットワークも更に強固にできたため、構築した信頼関係をもとに防衛装備移転や技術移転、国際共同研究開発の気運をより一層醸成して行きたい」と語った。 |