11月12日から27日までの間、中国・広州で第16回アジア競技大会が開催された。 自衛隊体育学校からは18人の選手、11人の監督・コーチなどの役員が参加し、連日熱戦を繰り返し、合計で金3、銀2、銅6、計11個のメダルを獲得するなど、日本中に注目されるような華々しい活躍をした。 特に高桑健3海尉が400m個人メドレーで銅メダルを獲得し弾みをつけると、高桑の看板種目である200m個人メドレーでは他を圧倒する速さを見せて優勝、金メダルを獲得。これは自衛隊体育学校にとりアジア大会4大会ぶりの金メダルとなった。 また、同じ水泳、原田蘭丸2海曹が400mメドレーリレーのアンカーとして出場し、追いすがる中国チームが2人もフライングする異常な展開の中でも、原田をはじめ日本のリレーメンバーはそれぞれが自分たちの泳ぎを冷静に行い優勝。原田はこのほか、400m自由形リレーで銀、50m自由形で銅と3つのメダルを獲得した。 また、レスリング・フリースタイル66kg級に出場した米満達弘2陸曹は準決勝で北朝鮮の選手を破り、決勝で昨年世界王者のイラン選手を退け、揺るがない強さを見せて優勝、金メダルを獲得した。この金メダルは日本レンスリング界では5大会16年振りのフリースタイルでの優勝だった。 それ以外には、グレコ74kg級に出場した鶴巻宰3陸尉が銀メダル。同66kg級に出場した藤村義2陸曹が銅メダル。今年の世界選手権で優勝し、今大会優勝候補の筆頭だった坂本日登美2陸尉は準決勝でまさかの敗退となり、3位銅メダルに終わる。 また、ボクシング・フライ級に出場した須佐勝明3陸尉もパンチの破壊力とクレバーなディフェンスで勝ち上がり銅メダルを獲得した。さらに、富井慎一3陸曹、野口隼人3陸曹、三口智也3陸曹、藤井真也3陸曹で構成した近代五種団体日本チームは銅メダルを獲得し、来年のオリンピック出場枠がかかるアジア選手権へつなげた。 今回のアジア大会は開催前には尖閣諸島関連事案、開催期間中は北朝鮮砲撃事案等、緊迫した国際情勢にもかかわらず、42競技476種目、アジア地域の45カ国・地域より1万4000人を超える選手・役員が参加し、日本代表も合計1076人にも及ぶ史上最大の選手団が派遣された。体育学校選手の活躍はアジアに日本のプレゼンスを印象づけたいという戦略的な意味からも意義があったものと評価されている。
11月12〜27日の間、中国・広州で開催されたアジア大会において一際記憶に残ったのは400mメドレーリレーにアンカーとして出場した原田蘭丸2等海曹だ。 原田はアジア大会開始の時点ではメドレーリレーの出場が決まっていた訳ではない。パンパシフィック選手権での成績では自由形の選手の中では日本人3番手でこの時点では原田の起用はなかった。 だが、最初のレースの50m自由形で銅メダルを獲得し、原田に流れができた。そして400m自由形リレー。メドレーリレーのアンカーとなる自由形の選手は、この400m自由形リレーと翌日の100m自由形の結果で選ぶことになっていた。原田はここで49秒16のタイムを叩きだした。これは藤井拓郎に次ぐ成績だ。普通ならば、藤井が自由形になるが、藤井はバタフライでも日本記録を持ち、アジア大会でも好記録を出している。水泳指導陣はシミュレーションを行い、藤井にバタフライを泳がし、原田が自由形を泳いだ方が、総合的に速いと判断した。原田のアンカーが決まった。 原田にそのことが告げられたのは、メドレーリレー競技の前日11月17日の深夜だった。原田以外では、背泳ぎが入江陵介。平泳ぎでは北島康介に勝った立石諒、そして藤井と原田。日本が誇りをもって送り出す最強の布陣だった。 原田は責任の重さを実感した。それでもメンバーの力からいって優勝できるはずだった。原田はレースに臨むに当たって、こういった白熱するリレー競技では、とにかく引き継ぎ時のフライングが怖い、それだけはしないようにと考えた。 いよいよ決勝レース。原田の前に泳ぐバタフライの藤井は中国との1秒20の差で飛び込んで来た。原田は引き継ぎタイム0・13秒の驚異的なスタートダッシュを見せ、この大会一番の快調な泳ぎを見せた。だが、中国の第4泳者呂も47秒台を伺う驚異的な追い上げを見せる。原田も必死に泳ぐ。ほぼ同着でゴール。原田は49秒03と好タイムであったが、中国が文字通り、指先の差0・09秒でゴール。日本が負けたと誰もが思った。だが、次の瞬間、中国の第2泳者が0・26秒フライングしたことが判明。さらに中国の第4泳者も0・06秒フライング。日本の勝利が確定した。タイム的には中国の記録にフライング時間を加えると0・23秒日本がリードしていた。日本の完全な勝利だった。 原田は試合後「最初は自分の所為で負けたと思いました。結果的に優勝できたが、オリンピックでは、アンカーは原田なら任せられると言われる選手になりたい」と語った。日本がロンドンでメダルをとるためには、世界レベルで考えるとアンカーが48秒を切らないと厳しい。原田には不可能なことではない。体力が課題ではなく、手で掻くときの水の捉え方や、上体の沈み等、テクニックの問題だ。この苦しい戦いの中で、大きく成長した原田に期待したい。 (体校渉外広報室・佐野伸寿3陸佐)