地球温暖化が進んでいる。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書によると、地球の平均表面温度は工業化以前の水準(1850-1900年の平均)から1.1℃上昇した。温暖化は今後も進み、このまま行くと今世紀末には最大3.3〜5.7℃上昇すると予測されている。温暖化が進むと、海面上昇による低地の海没、浸水の他、熱波、干ばつ、豪雨、洪水などの異常気象の頻発、砂漠化の進行、さらに種の絶滅を伴う生態系の変化など、深刻な地球環境の変化が起きる。温暖化は、人間の活動によって大気中に排出されたCO2をはじめとする温室効果ガスによって起きていることが、疑う余地がなく明白である、とIPCCは断定した。
IPCCは、温暖化が工業化以前の水準から2℃以上進むと極めて深刻な地球環境の変化が起きるとし、2℃未満に抑えることを目標にしたが、その後、1.5℃に抑えるのが環境変化のリスクがずっと少なく、望ましいとした。これを受けてCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議、2015年パリ)で、2℃未満を目標に定め、1.5℃に抑える努力を追求することとし、各国が削減目標を提出することになった。COP26(2021年グラスゴー)では、1.5℃に抑えることの重要性が強調されて1.5℃が事実上の目標となり、これに沿って2030年までに世界のCO2排出量を45%削減、今世紀半ばに排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)とすることの合意がなされた。そして直近のCOP28(2023年12月ドバイ)では、1.5℃に抑制するため、温室効果ガス排出量を2030年までに43%削減(CO2は45%削減)、2035年までに60%削減(CO2は65%削減)し、2050年までにカーボンニュートラルを達成する必要があることを認識する、と合意された。
地球温暖化が問題となり、温室効果ガス排出量の国別削減目標値が初めて決められたのはCOP3(1997年京都)に於いてであるが、温暖化問題の認識の深化とともに削減目標は次第に厳しくなり、現在とても実現できそうもない目標となっている。今から5、6年後の2030年までにCO2排出45%の削減、10年後の2035年までに65%の削減など、実現不可能である。必要な広範囲の実用レベルの技術が得られていない。原子力、再生可能エネルギーなど、CO2排出ゼロの技術は存在する。しかし太陽光や風力などの再エネは出力不安定で、一定量以上は電力系統に導入できない。原子力はCO2無排出の優れたエネルギーであるが、非常に長期の建設期間を要する。他にCO2排出ゼロの技術は数多く存在するが、実用レベルに達していない。削減目標が達成できないもう一つの理由に、世界の国はすべて、先進国、途上国を問わず、自国の経済発展を妨げるようなCO2削減策は現実的に取らない(取れない)ということがある。
COP28では、各国が現実的に取れる対策がいくつか合意された。化石燃料についてはフェーズアウト、フェーズダウンではなく、化石燃料からの移行という表現になり、エネルギー安全保障と円滑な移行燃料(おそらく天然ガスを含む)の役割が明記された。また原子力とCCUSが推進すべき技術として再エネと並んでポジティブに明記された。COPのこうした現実的アプローチは必要なことだと私は思う。
1.5℃目標はまだ死んでいないが、2035年CO2の65%排出削減は実現できず、2050年頃には気温上昇も1.5℃に達するだろう。しかしこの頃までには、広範囲の革新的な実用レベルの脱炭素技術がつくりだされていると信じたい。今世紀後半から末までにはカーボンニュートラルを達成して、温暖化の進行が止むことを期待したい。
(令和6年2月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |