「凋落し続ける日本の国力」など元日のテーマとしてふさわしくないが、新年を迎えあらためて日本について考えるとき、これが最大の問題と思われるので、以下に論ずる。
国力を構成するものに、経済力、軍事力、科学技術力、そして文化力があると思うが、根底をなすのは経済力だと私は思う。すぐれた文化も、あるレベルの豊かさがなければ生まれない。
その豊かさが平成以降凋落し続けている。日本の一人当たりGDPは、2023年35千ドルで、アメリカ80千ドルの半分以下、イタリア37千ドルより少なく、G7の中で最下位である。2000年から2023年にかけてアメリカの一人当たりGDPは2・2倍となり、ドイツは2・1倍、フランス1・9倍、イギリス1・6倍と増加しているが、日本だけが0・9倍と減少している。
OECD加盟国における日本の一人当たりGDPは22位(購買力平価、2022年)で、加盟国38カ国中の下位グループに属し、韓国(18位)よりも下位にある。賃金でみても、日本人の平均賃金は39千ドルで、OECD諸国の中で低い方に属する。すでに韓国や東欧のリトアニア、スロベニアなどよりも低い。日本は1990年代末から全く賃金が上昇せず、貧困化が進んでいる。
さらに衝撃的な国際評価がある。IMD(国際経営開発研究所)が毎年公表している報告によると、日本の国の競争力ランキングは2023年、世界64カ国中35位である。アジア太平洋地域での日本の順位は14カ国中11位で、第1位はシンガポール(世界第4位)、第2位台湾(世界第6位)、第3位香港(世界第7位)、中国第5位(世界第21位)、韓国第7位(世界第28位)である。マレーシア、タイ、インドネシアも日本より上位にあり、日本より下位はインド、フィリピン、モンゴルのみである。1989年IMDが世界競争力ランキングを発表し始めた頃、日本の競争力は世界第1位だった。ここ三十年の日本の凋落は衝撃的である。
近い将来日本の経済力が劇的に回復するようにも見えない。日本の財政は危機的状況にある。社会保障費の増大をはじめとする歳出の増加に税収が不足し、国債の増発による財政運営が恒常化して、国債の残高が1,042兆円(2022年度末)の巨額に達している。予算額の約10倍、GDPの約2倍である。日本政府は財政健全化を放棄したように見える。こうした財政運営のつけは必ずどこかで払わなければならないのではないか。78年前日本は太平洋戦争に敗れ、経済も破綻した。戦後ハイパーインフレが起き、国民は塗炭の苦しみを味わったが、これは戦時の膨大な戦費を国債でまかなってきたつけの解消ではないか。戦争末期1944年当時の政府債務(国債と借入金の合計)はGDPの267%に達していた。現在(2022年)264%に達している。不気味な一致である。
日本の経済力を長期で通観すると、世界のGDPに占める日本のGDPの割合は、1700年4・1%、1820年3・0%、1913年2・6%、1950年3・0%、1973年5・7%、1985年10・2%、1995年17・5%、2005年10・0%、2017年6・0%、2022年5・3%となっている。ここに、日本の経済力は1980年代から二、三十年、例外的に大きかったのであって、今普通に戻っているのだという歴史的な見方が存在する。
しかし、私はそう思わない。今後国力が経済よりも文化力で評価されるウエイトが高まると思われるが、日本はなお一定の豊かさを失うことなく、国力が保たれなければならないと思う。
(令和6年1月1日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |