2024年(令和6年)、明けましておめでとうございます。
内外諸情勢そして防衛省・自衛隊を取り巻く環境は、昨年以上に厳しいものが予想され、予断を許しません。それだけに責任も重大です。
新年早々の1月13日には、台湾総統選の投票が行われます。現在、三つどもえの激しい闘いの真っ最中です。その結果は、日本はじめ東アジアのみならず世界の安全保障に大きな影響を与える極めて重要な選挙。それだけに、対岸の中国は選挙戦に様々な不当な介入をしているとも報じられています。
ASEANの盟主インドネシアでは、2月14日の大統領選めざして、ブラボウォ現国防大臣を始め3名の候補者が熾烈な選挙戦を展開しています。過去24年間インドネシアに併合され、多くの犠牲を強いられて来た東ティモール国民としても、今回の選挙は格別に関心の高い選挙です。インドネシア国民の選択が注目されます。
ウクライナ侵略を続けるロシアでは、プーチン大統領が3月15〜17日にかけての大統領選に立候補を表明。再選は確実。2022年2月24日に開始されたウクライナ侵略は、間もなく2年目に突入です。
その存在感を増し、日本にとっても益々重要な国となって来ているインド。グローバル・サウスのリーダーを自認するモディ首相は、本年G20の議長国を務め、4月〜5月には総選挙の洗礼を受けます。
そして8月のパリオリンピックを経て、やって来るのが11月の同盟国アメリカの大統領選挙です。
こうした中、自衛隊員の皆さんには、いかなる事態に際しても常に与えられた任務の完遂に努められ、国民の皆さんの負託に応えて行って頂きたいと思います。防衛省・自衛隊のOBとして、国民の皆さんと共に、心から力いっぱいのエールを送ります!頼みます!
そんな皆さんに、創刊以来半世紀にわたって寄り添い、どんなときにも皆さんを激励し続けて来た本紙「防衛ホーム」。新たなる半世紀に向けた51年目をスタートされました。小さなオレンジカラーの本紙は、これからも全力で隊員の皆さんそしてご家族の皆さんの心の応援団であり続けることでしょう!頑張ってください!
ところで皆さんは、今年の年賀状をどのくらい出されたでしょうか。各種報道によりますと、2024年用の年賀状の当初発行枚数は、約14億4000万枚。2023年用の約16億4000万枚の約12%減。
13年連続で減少しており、2007年の郵政民営化以降で最少とのこと。過去ピークだったのは、今から20年前の2003年用の約44億6000万枚の由。
団塊世代等の第一線からの引退、高齢化に伴う年賀状による挨拶の取止め、国内の経済情勢、少子化、時代と共に年賀状に対する人々の気持の変化、手っ取り早い代替手段としてのメールやSNSの急速な普及、などがあるにしても、その落ち込みの大きさ、激減には驚きます。この減少傾向は、いわば放置されたままに進んで行くことでしょう。普通の手紙やはがきについても利用者が著しく減っており、今年は郵便料金が大幅に値上げされます。正に「負のスパイラル」の典型です。
しかし、年賀状や手紙の比どころではない、代替手段のない、絶対に放置できない、深刻な落ち込み・激減に陥っているのが、自衛官の採用です。自衛隊組織の特性上、特に多くの採用を必要とする一般曹候補生及び自衛官候補生の採用です。
防衛力の抜本的強化を図るため、昨年12月22日に閣議決定した2024年度防衛関係予算(案)は、7兆9496億円に上ります。2023年度当初予算6兆8219億円から1兆1277億円の大幅増額です。
このような過去最大規模の防衛費に盛り込まれた各種装備品や部隊編成等を含め、それらを防衛力として機能させるための根幹は人です。自衛官です。正に、人は石垣 人は城。自衛官の皆さんです。
今、防衛省・自衛隊の皆さんは、重大な危機意識を共有しながらも、現職隊員に続く所要の新入隊員を採用出来ない非常事態の真っ只中でもがいています。
2023年12月20日に文部科学省が公表した「令和5年度学校基本統計確定値」があります。それによると、高校卒業生の高等教育機関(大学・短大・高等専門学校・専門学校)への進学率は、上昇を続け、過去最高の84・0%。一貫して少子化が進む中、大半の高校生が、高等教育機関に進学していることを示しています。大学・短大に絞った進学率でも、過去最高の61・1%。
こうした中、第一線の全国各地の地方協力本部の皆さんは、大規模災害発生時における人命救助等、自衛官ならではのやりがいを説明するなどして、一般曹候補生や自衛官候補生の勧誘に努めていることと思います。
しかし、高校だけでなく大学も出たのだから、我が子には大学卒にふさわしい職について欲しい、そう願う親御さんのお気持ちも分かるような気がします。また、これまで募集に協力して来てくださった高校の先生も、同校の進学先大学の如何を問わず、今やわが校は進学校であると自負され、これまでのように高校卒業と同時に自衛隊に入隊することに協力することは差し控えるようになって来ているのではないでしょうか。そんな気も致します。
また、最近頻繁に報じられているジャニーズ事件や自衛隊内での様々なパワハラやセクハラ事案のニュースが、女性のみならず男性をして自衛隊入隊をためらう要因の一つになっていることも否定できないと思います。
更に、インターネットに掲載されている人気のある「消防官採用情報」や「警察官採用情報」を一見して分かることは、いずれも「採用区分」が「大卒程度」と「高卒程度」に大きく2分されているだけであり、初任給は、共に同一金額が明記されていることです。他方、自衛官の「採用区分」は、その特性上多岐に渡り、初任給についても、消防官や警察官との比較において、説明を待たなければなりません。
第一線で募集任務に従事している皆さんは、この冬以上の酷寒の厳しさに見舞われているに違いありません。どこまで採用目標を達成できるか。大変な苦労を続けていることと思います。しかし、いくら頑張っても、「無い袖は振れません」。
もはや一人防衛省のみならず政府全体として知恵を出し、憲法の下、思い切った全く新しい具体的施策を打ち出すしかありません。
自衛隊の石垣と城は、崖っぷちです。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |