1月15日午後1時頃、トンガ王国で海底火山が大噴火しました。
海底通信ケーブルの損傷や脆弱な通信インフラのため、トンガ政府は、なかなか噴火や噴火に伴う津波の被害等について国際社会に伝えることが出来ませんでした。このため僕は、トンガ国民の皆さんは大丈夫だろうかと不安にはなるものの、数日の間は、なかなかその痛みが伝わって来ませんでした。
日本のテレビの報道も、現地の被災状況ではなく、専ら噴火によって発生した津波の日本到達に係る津波警報や注意報を取り上げていました。
今回、現在の科学をもってしても噴火によって生起した津波の発生や到達を予測することは困難なのだという気象庁の見解を目の当たりにし、愕然とする思いを禁じ得ませんでした。
当初気象庁は、「津波の被害の心配はない」と発表していました。地震による揺れも感じなかったことから、当然国民には危機感は伝わりませんでした。
ところが、16日未明になって、急遽気象庁は、日本の広範囲に津波警報や注意報を発表するという事態に陥りました。
国民に警報や注意報を伝えましたが、はたして国民に伝わったのでしょうか。
これについて、注意報が出されてから1週間後の1月23日付けNHK「NEWS WEB」が、とても興味深い内容を伝えています。
「津波注意報が出された宮城県内ではおよそ8万8000人に避難指示が出されましたが、避難所に避難したのは最大でも1%未満の177人だったことが分かりました」
「宮城沿岸の人たちは、東日本大震災で"揺れたら避難する"という意識が定着しているが、揺れなかった今回はその意識が退避行動を阻んだのではないか。知識や経験は非常に重要だが、固定化することは危険で、災害が起きたら避難判断を一つ、二つ上げて行動することが重要だ」(佐藤翔輔東北大学災害科学研究所准教授)
注意報は、99%以上の方には伝わらなかったということです。
しかし、気象庁や自治体には、地震や津波のみならず台風など自然災害に際しては、今後共警報や注意報を伝えるべき時には、仮にそれが空振りの結果になったとしても、また、結果として多くの国民に伝わらなかったとしても、躊躇なく国民に伝わるよう伝えて行って頂きたいと思います。
自衛隊員の皆さんや本紙読者の皆さんにも、私的生活の場面や、仕事や業務遂行等の過程で、「伝えたけれど伝わらなかったなぁ」そんな経験があるのではないでしょうか。
仮に伝わらないことが多かったとしても、伝わる努力、伝える努力を続けることが大切な局面は、これからも多いのではないでしょうか。
僕たちは今、コロナ禍感染急拡大の真っ只中に在ります。それぞれが感染防止の徹底に努めています。そうした中で、特に沖縄に駐留する米海兵隊の感染防止措置について問題が指摘されて来ました。日本サイドは在日米軍に対して様々なレベルから改善するよう伝え、強い申し入れを続けました。その結果、隊員の行動制限等も導入されました。
在日米軍は、これまでも地元の人々の「良き隣人」であるべく努めて来ています。しかしそれが、地元の皆さんの心に伝わらなければ、身近な「良き隣人」とは言えず「遠い隣人」に留まってしまいます。一人ひとりの隊員が、人間としてまたいわば一人の外交官として、誠実な行動を積み重ねて行く中で、自然に伝わって行くものだと思います。
1月17日からは通常国会が開催されています。
岸田首相は施政方針演説の中で、「中国には、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めていきます。同時に、諸懸案も含めて、対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力し、本年が日中国交正常化50周年であることも念頭に、建設的かつ安定的な関係の構築を目指します」と表明しています。
中国に伝えるべきことは断固として伝えて行く。相手に伝わらないことが多いかもしれない。しかし、主張・伝える努力は一瞬たりとも怠ってはならない。どんなときであってもトップ同士の対話は堅持して行く。その中から、お互いに伝え合い伝わるものが見いだせる可能性があるのではないか。・・・そんな思いをしながら聴き入りました。
また、本年は日中国交正常化50周年の節目の年です。
僕は、2012年の40周年のとき設置された官民から成る「2012日中国民交流友好年実行委員会」の事務局長を務めました。青少年交流やこれまで接点の無かった人たちの交流を重視して計画を立て実施して来ました。その後、我が国固有の領土である尖閣諸島の国有化に対し中国が強く反発。日中関係悪化の中で、交流行事等が途中で中止になったことは本当に残念でした。
あれから10年。日中関係は益々厳しさを増しています。NPO法人「言論NPO」などが昨年10月20日に発表した日中共同世論調査でも、日本人の90・9%、中国人の66・1%が、それぞれ中国、日本に対して好感を抱いていません。(2021年10月20日付け朝日新聞)
しかし、こういうときであればこそ、日中関係の重要性に鑑みて、「2022日中国民交流友好年実行委員会」のようなものを速やかに立ち上げ、更なる50年に向けて、コロナ禍の中で可能な両国民による各種交流事業等の実施に取り組む決意と行動を伝えることが重要と考えます。その思いは中国も同じであり、お互いに伝わり合えるのではないでしょうか。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |