2020年最後の月を迎えてなお、私たちは今ある人類最大の脅威新型コロナウイルスに勝利する確信を有するに至っておりません。むしろ冬の気配を感じる11月中旬頃からは、一日の感染者数が日々過去最高を記録するなど、事態は深刻化の一途をたどっています。
マスク着用・3密の回避・手洗いの徹底は、私たち誰にでも出来る、誰もがしなければならない新型コロナウイルス打倒に欠かせない行動です。それはまた、家族や仲間・友人のみならず全ての人々に対する温かな思いやりであり、命懸けで感染者の命を救うため24時間態勢で戦っている医療従事者の皆さんに対するかけがえのない信頼の支援活動そのものでもあります。
コロナ禍との戦いに中止はありません。更にどんなにお金と労力を費やしても、最後の最後まで、何としてもやり遂げなければなりません。それ以外の選択肢はありません。
このようなコロナ禍との戦いが続く中、真っ向対極をなすのではないかと思われる言葉に最近出会いました。「コンコルド効果」。僕の当初の反応は、「なんだ、それ?」。
実は、この言葉の語源は、かつてのマッハ2を超す超音速旅客機「コンコルド」。通常5時間ほどかかるニューヨーク・ロンドン間を3時間ほどで飛行する世界で一番早い英仏共同開発の旅客機。機首が鶴のくちばしのようにとんがってチョット下向き、細身で三角の翼。日本には1972年6月に初飛来。1979年6月、日本で初めて開催された「東京サミット」には、フランスのジスカールデスタン大統領一行も同機にて来日されています。
しかし、この航空機は、1969年から僅か20機ほどが生産されたに留まり、2003年には運航を終了。失敗機でした。
そもそもコンコルドは、開発段階から、製造コストが高い・燃料の消費が激しい・乗員数は100名までが限度・運賃が著しく高く利用者は増えない・飛行航路や乗り入れ先が限定・維持費やメンテナンス経費が高い・売れない・開発費の回収は困難・航空会社は採算が取れないことなどが分かっていたとのことです。
すぐに開発を中止することが最善の選択肢であったにもかかわらず、投資を継続し、何兆円もの赤字を出すに至りました。途中でやめた方が経済的には損失は少なくて済んだのですが、これまでせっかく投入して来た多額の金額や時間・大変な労力等が無駄になってしまう、水泡に帰することは「もったいない」との気持ちが、物事を客観的に判断することを不可能にしてしまった。どんどん深みにはまって行ったのです。
「コンコルド効果」は、いわば後ろ髪をひかれて中止の判断が出来ない心理状態を言うとのことです。
このような「コンコルド効果」は、現在においても、大は国家的プロジェクトから各種組織や企業等の事業、更には僕たち一人ひとり生き方・身の回りの行動に至るまで、とかく人間が陥りやすい心理状態のように思えます。
これまで全力を投入して進んで来た道であるからには、「何が何でも成し遂げなければならない」との思いのあまり、ズルズルと中止すべき時機を失してしまう。大きな問題等を認識して、次善の道、或いは次々善の道、更には次々々善の道を選択する客観的な判断をすることが将来に向けての最善の選択であるのにも拘わらず、中止する決断が出来ず当初計画にしがみついて行く。その結果は、最悪の判断・行動となる…。
コロナ禍との厳しい戦い真っ只中にあって、さまざまな重要なプロジェクトや事業の策定そして遂行に懸命に取り組んでいる皆さん。そうした皆さんに、既にこのような「コンコルド効果」が働いている懸念はありませんでしょうか?このささやかな拙稿が、改めて皆さんが自戒する機会の一助になれば幸いです。
そして僕たち個々の人生について考えた場合も、極論すれば、最善と思った道をズット歩み続けている人など、一人もいないと思うのです。一生懸命頑張って来たけれど途中で中止して他の道を選択する。それは、決して永久の挫折ではありません。今までの厳しい経験を心のバネに、新しく選択した道に一歩踏み出す。自ら、これまで想像だにしなかったやりがいや生きがいを実感する人生の扉をこじ開けて行く。
時機を失しない客観的な判断が出来、進むべき道の変更を決断出来る冷静な勇気あるところに、コンコルドは飛んで来ないと思います。
頑張ってください!
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |