新型コロナウィルスがパンデミックを引き起こし、中国が世界から非難されている。これに関連して、私は31年前の天安門事件を思い出す。
1989年、民主的な改革を進めようとしていた総書記胡耀邦が死去し、学生・青年らが北京天安門広場での追悼集会に集まった。集会は50万人にも膨らみ、民主化要求のデモとなった。最高指導者トウ小平はこれに危機感を抱き、軍隊を投入してこれを弾圧。人民解放軍戦車が広場に入り、集結する学生・青年に銃口を向け、乱射した。党は学生らの死亡数を319名としたが、世界のメディアは3千人にのぼる学生らが殺されたと見ている。
欧米諸国は中国を非難し、天安門事件に対して経済制裁で応じた。日本もこれに参加したが、一年で制裁を解いた。日本の海部首相は西側首脳として事件後初めて訪中し、ODAを再開した。そして宮沢内閣は1992年天皇陛下の訪中を実現させた。
天安門事件後の後遺症を克服するために、1992年、トウ小平は市場経済の大幅な容認政策を打ち出した。これは共産党の独裁のもとで、中国が資本主義国となるのを認めるようなもので、中国は以後大きな経済発展を遂げることになる。
中国経済は1992-2011年の20年間は年平均10%、その後2019年まで年平均7%の高成長を遂げた。GDP(名目)は2019年には14兆ドルに達し、1992年の28倍となった。日本を抜いて世界第2の経済大国となり、2019年には日本のGDPの2・7倍に達している。
軍備の増強も著しく、中国の軍事費は2018年には2億5千万ドルまで増大、アメリカ(6億5千万ドル)に次ぐ軍事大国となった。中国の軍事費は1992年から2018年まで26倍となったが、この間日本の軍事費の増加は1・14倍に過ぎない。科学技術力も、軍事、宇宙、通信、情報等の分野において日本を大きくリードしている。
天安門事件から31年、日中の力関係は全く変わった。日本は今、強大化した覇権国家中国の脅威にさらされた、弱小国である。天安門事件の頃のように、西側諸国に対して中国を弁護するような力は今の日本にはなく、またそんな必要もない。
中国はかつてのソ連や今の北朝鮮と同様、非常に問題のある国である。民主主義で国を治めることができない。中国共産党による独裁は、統治のために人権を平然と無視する。経済成長で自信をつけた中国は、民主主義を西欧の思想にすぎないと、確信をもって否定するようになった。
今回のコロナ禍で世界、特に西側民主主義国は中国の異質性をはっきり知ったと思う。真実を隠蔽し、プロパガンダに長け、不都合な事実は平然と否定し、ウソを言う。習近平の中国は自由と民主主義に挑戦して、世界を変えようとしている。
安倍首相退任を受けた新政権の最大の課題は中国との関係である。天安門事件後のように日本が中国にすり寄れば、西側民主主義国に軽蔑され、日本は孤立し、日米同盟にも亀裂が入るだろう。民主主義国と中国との対立は、普遍的な価値観にかかわる対立である。日本は自由と民主主義の国として誇りをもち、毅然として中国とは一線を画した関係に終始すべきである。
(令和2年9月15日)
神田 淳(かんだすなお)
高知工科大学客員教授著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii-nihon.themedia.jp/)などがある。 |