今年も激しい集中豪雨や大型台風の上陸が続いています。テレビでは、「これまで経験したことの無い」とか「観測史上最高の」といった言葉が飛び交い、「命を守る行動を速やかに取ってください」と呼び掛けています。
気候変動のためでしょうか。去年の最高(悪)記録はどんどん塗り替えられ、私たちが晒される自然の猛威は留まるところを知りません。事前の警戒や準備にも拘らず、自然は冷酷非情。情け容赦致しません。「これからどうしたらいいか分からない」想像を絶する自然の破壊力の痕跡の中に立つ被災者の皆さんの呆然とされた痛々しい姿。明日は我が身かも知れない、そう感じた人も多いのではないでしょうか。
こうした中、特に復旧対策の遅れに違和感を覚えたのが9月8日から9日にかけて関東を直撃した猛烈な台風15号です。特に千葉県全域での被害は甚大でした。停電による情報の途絶等からでしょうか、想像以上の電柱や倒木による被災地の現場への交通手段の途絶のためでしょうか、復旧作業の前提となる被害の実態把握そのものが大きく遅れたように思えます。
でも国民の一人として、首都圏に住む者として、今回の復旧作業の遅れをやむを得なかったとはとても思えないのです。僕自身に誤解等があるのかも知れませんが、なぜこんなに遅いのか、不思議に思いました。
2万戸を超える屋根等の損壊は枚挙にいとまなく、雨漏りを防ぐ応急処置用のブルーシートの不足や屋根に上ってシートを設置する専門作業員の不足も指摘され、屋根からの転落事故も少なくありません。
約2000本もの電柱の倒壊・損傷や倒木等による停電は、予想外の困難さを復旧作業に強いるものとなりました。もちろん東京電力をはじめ全国から駆け付けた電力会社の皆さんは、一日も早い停電解消に取り組まれました。しかし作業は著しく手間取りました。しかも復旧見込み時期は、幾たびも延期されました。被災者の皆さんは、その都度ガックリされ、ひたすら耐える日々だったことでしょう。
クーラーや冷蔵庫、医療機器やウォシュレット、スマホなど無かった時代と、それらが当たり前、生活基盤の前提となっている今とでは、人々や社会の受けるダメージ・苦しみには、雲泥の差があります。いったん享受した便利さを放棄することは、不可能であるばかりか、時に命の危険にも関わって来ます。
今回の台風15号襲来は、これまで経験したことの無い暑さや大規模自然災害の常態化が懸念される中で、改めて、国民の今ある生活基盤の速やかな復旧が、いかに難しいものであるかを見せつけるものとなりました。
敢えて誤解を恐れずに申し上げるならば、この程度の台風被害で、このような対応をしていたのでは、年内にもあるかも知れないもっと強烈な台風の襲来や、来たるべき大地震等が生起した場合、どうなってしまうのか心配を禁じ得ません。国は、千葉県を含む県下の自治体・東京電力等の民間企業などを含む関係機関と共に、速やかに今回の検証を行うものと思います。そしてその検証結果・情報は、全国の都道府県や防災関係当局とも共有し、防災計画・復旧対策等の策定や改定等に活かして行く。
今日もテレビでは、気象予報士が新しい台風の発生と予想進路図を説明しています。防災や災害復旧に全力で頑張っている皆さの気持ちと力が、被災地や被災者の皆さんに向けて速やかに、総合的かつ効果的に発揮出来る体制の一層の整備・充実をお願いしたいと思います。
北原 巖男
(きたはらいわお)
元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |