激しい人材争奪戦。
今年も来年3月卒業予定の大学生たちの就活が開始されました。なんとこの段階で、およそ5〜8%の学生が内定をもらっているとの報道もあります。完全な売り手市場なのです。
学生にとっては、より良い就職先を選択する余地が大きいのですが、それだけに選ばれる側の企業等は必死です。
人材不足は企業等の存立を危うくするものにほかなりません。採用活動に取り組んでいる担当者の皆さんには、これまでにない危機感を感じます。
こうした中、防衛省・自衛隊の隊員募集の困難さは、さらに危機的だと思います。
新しい「防衛計画の大綱」、「中期防衛力整備計画」の下で、複雑多様化・高度化する任務に応えて行ける有為な人材の確保は、自衛隊存立の根幹に関わる焦眉の急です。
売り手市場の中で、民間企業間の熾烈な採用競争に割って入らなければなりません。
そんなとき、ある地方協力本部の募集ポスターが、不適切な表現内容が含まれているとの批判を受け、撤去・削除されました。このポスターからは、自衛隊員であることの誇りは伝わって来ませんし、いわゆる「おじさん」的感覚がにじみ出、募集対象となる若者諸君の尊厳を守る気概も感じられません。自衛隊の本質さえをも疑われかねず、関係者は謙虚に共有する教訓としなければなりません。
しかし、決して委縮してはなりません。
これを機に、大いに建設的かつ意欲的な魅力ある募集活動に邁進していただきたいと思います。自衛隊の募集活動は、一度の失敗に懲りたり、民間企業の採用活動等の後塵を拝してなどいられないほどに待ったなしです。
日本経済新聞(2019年1月21日)は、8つの機関や団体、公職を挙げてその信頼度を尋ねた世論調査の結果を公表しています。それによりますと、「信頼できる」が最も高かったのは自衛隊で60%に上がっています。他方「信頼できない」は7%に留まっています。
「平成は災害が相次いだ。過酷な現場で被災者を救出したり、避難所の支援をしたりする姿などが繰り返し伝えられ、高く評価されているとみられる」(同紙)
国民の皆さんから信頼されることほど嬉しいことはありません。やりがいもあります。
と同時に、テレビ等で大きく報じられる災害派遣活動のみならず、実は今この平穏な時間帯も、24時間体制で我が国の平和と安全を守るため、黙々と任務の完遂に努めている沢山の隊員の皆さんが頑張っていることも、広く国民の皆さんに理解していただくことが大切です。
国民の自衛隊として、出来る限りの透明性に努め、防衛省・自衛隊を正しく知っていただく。
そして自衛隊員であるあなたが、人間として社会人として魅力ある方であることを知っていただく。
「あなたのような人が、自衛隊員として頑張っている自衛隊なのですね」
深刻な人出不足、地方創生等に対応するため、出入国管理法(入管法)の改正が行われました。4月から施行され、今後5年間に約34万5000人の外国人が、対象となる9か国から14業種に働き手として入国して来ます。このことは、我が国として、少子高齢化の加速、人材不足がいかに深刻であるかを如実に示しています。
もちろん、自衛隊員については日本国籍を有する者でなくてはなりませんが、隊員の募集環境が、これから厳しくなる一方であることは火を見るよりも明らかです。
募集年齢の引き上げ、女性自衛官の増員に留まらない、思い切った幅広く重層的な魅力化対策・募集施策の早急な検討・導入が求められます。
北原 巖男
(きたはらいわお)
元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |