8月26日、「平成30年度富士総合火力演習」の一般公開が静岡県の東富士演習場で行われ、小野寺五典防衛大臣、高橋憲一防衛事務次官をはじめとした防衛省・自衛隊の高級幹部、国内外の来賓、そして倍率約28倍の抽選で当選した一般客が陸上自衛隊最大規模の実弾演習を見守った。
本演習は昭和36年に陸自富士学校の学生教育の一環として始まり、一般公開は昭和41年から行っている。今年度の演習担任官は富士学校長・高田祐一陸将、演習実施部隊指揮官の富士教導団長・古田清悟陸将補を中核に人員約2400名、戦車・装甲車約80両、各種火砲約60門、航空機約20機、その他車両約700両が参加し「前段」「後段」で勇姿を見せた。
演習は例年どおり、陸上幕僚長・山崎幸二陸将から小野寺大臣に対し準備完了報告がなされ、前段演習「陸上自衛隊の主要装備品の紹介」が開始。まず特科火力の展示として、陸自で最も多く配備されている155mmりゅう弾砲FH70が登場。少し遅れで99式自走155mmりゅう弾砲が進入。全ての射弾を同時に破裂させる「TOT」など速やかで広大な正面に対する射撃を披露、特定の広さの地域を制圧する場面を目の当たりにした。また陣地変換時に本来牽引式のFH70が自走する姿も見ることができた。その後は中距離火力、近距離火力、ヘリ火力、対空火力の紹介が続き、前段最後は戦車等火力の紹介。本演習で初めての射撃展示を行う16式機動戦闘車(MCV)2両が進入。空輸性、路上機動性に優れたMCVが105mm砲を発射するとその轟音に観客がどよめいた。続いて別の2両が横行行進射撃及び蛇行進射撃と離脱行進射撃を実施、その機動性と10式戦車と同等の命中精度を示すと同時に、搭載しているネットワークシステムによって戦闘に必要な情報をリアルタイムに共有する様相を見せつけた。
15分の休憩を挟み行われた後段演習は畑岡地区を我が国の島嶼部と想定し、「島嶼部に対する攻撃への対応」のシナリオのもと、敵に進入された島嶼部を陸海空の統合運用作戦で奪回する様相を展示。警戒監視をしている海自P-1哨戒機の進入から状況が開始された。地上では陸自が保有する最新のネットワーク電子戦システム(NEWS)等が、電磁スペクトラム作戦を実施するとともに、緊急展開した即応機動連隊がMCV等により敵を撃破。その後、水陸機動団の上陸作戦では、海・空からヘリ等あらゆる手段で断続的に監視し攻撃をかける様子に観客は息をのんだ。また情報小隊による偵察ボートの迅速な隠蔽の様子、水陸両用車(AAV)による射撃、スカイレンジャー(UAV)いわゆるドローンの情報収集等初めて目にする光景もあった。そして最終段階、主力部隊の富士教導団が上陸し、87式偵察警戒車による偵察射撃、92式地雷原処理車による障害処理、各戦車部隊による攻撃等圧巻の火力攻撃等が行われた。最後は空地一体となり島嶼部一帯に残存する敵を撃滅し、島嶼部を奪回するため、更に攻撃する「戦果拡張」を行って状況終了となった。
晴れ間が時折しかのぞかないあいにくの天気により、一部展示内容の変更を余儀なくされたが、霞がかり視界がクリアではない難しい環境が演習にリアリティーを持たせた。初めて来たという30代男性「音や衝撃が凄いとは想像していたが、ここまで凄いとは…」同じく始めて来た小学生男子「戦車がかっこ良かった、また来たい」と興奮覚めやらぬ観客達。MCV、AAV、電子戦など見所が目白押しの今年度の富士総合火力演習。29年度末に大改革を断行した新生陸上自衛隊が標榜する「即応機動する陸上防衛力」を存分に味わえた濃密な2時間であった。 |