「ボク、ほめられて伸びるタイプなんです」
「そうか、私は伸びたヤツをほめるタイプなんだ」
こんなジョークのような部下と上司のやり取り、どこかで聞いたことあります?
ところで、先日テレビで見たのは、或る外食チェーンの店長のスタッフに対する指導マニュアル。スタッフを育て、士気高く働いてもらう要諦は、「7割ほめて、注意は3割に留める。」
・・・マニュアル通りにやれば全てうまく行くほど甘くはありません。でも、ほめられたときは誰もが同じ、素直に嬉しいものです。何かその気になって来ます。元気も湧いて来ます。こんな気持ちは、若い人も昔の人達も全く変わりませんし、仕事の内容や組織によって異なるなどといったこともありません。
ここで本紙読者・隊員の皆さんの中には、1941年12月8日の真珠湾攻撃の指揮も執った連合艦隊司令長官山本五十六海軍大将が残した「名言」が浮かんで来る方もおられるのではないでしょうか。
「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ。話し合い 耳を傾け 承認し 任せてやらねば 人は育たず。やっている 姿を感謝で見守って 信頼せねば 人は実らず。」
防衛省・自衛隊で、あるいは様々な社会生活・日常生活の場で、私たちは上司になったり部下であったり、リーダーや責任ある立場に就いたり、スタッフやメンバーだったりしています。それぞれの立場からの良好な人間関係は、誰もが常に直面する大変身近で結構しんどい、組織全体の機能や能力発揮の根幹に係わる課題です。
ちょうど今月12月で完結を迎えるNHK大河ドラマ「麒麟がくる」が、クライマックスに近づいています。主人公は明智光秀ですが、改めて主君織田信長、彼に仕える家臣としての明智光秀と豊臣秀吉、三人の生き方に思いを巡らす機会にもなっています。
そんな時、整理していた資料に交じって、折りたたまれたまま茶色く変色した小さな新聞記事を発見しました。かつて知人から読むようにと手渡された切り抜きでしょうが、NHK大河ドラマ「秀吉」の「信長死す」を見たとありますので、今から四半世紀ほど前の19
96年の記事だと思います。
その中に、パナソニックの創始者である松下幸之助さんが、生前新聞のインタビューで語った言葉として、「秀吉は主人信長の長所を見ることに心がけて成功し、光秀はその欠点だけ目について失敗したんと違いますか」が紹介されています。松下幸之助さん自身、人材を育てるために人の長所を見て欠点は見ないように心がけられたとのこと。そして長所を見過ぎて失敗したこともあったとのことですが、曰く「それでええと思うとる。」
新聞記事は、「この寛大な度量が "一流の人" たるゆえんか」と述べ、中国の「菜根譚」を引用して「寛大で温かい心の持ち主は、春風が万物を育てるように、すべての物を発展させる」と締めくくっています。
これからも自衛隊は、何が来てもどんな事態に際しても、しっかり国民の負託に応え国民から信頼される存在でなければなりません。卓越した指揮統率、隊員相互の信頼とフォロアーシップ、規律の厳守、高い練度、旺盛な士気そして任務の完遂。
特に、前代未聞の未だ収束の見通しが立たない新型コロナウイルスとの戦いや頻繁に発生している大規模自然災害、延期されたオリンピック・パラリンピックそして予断を許さない我が国周辺の国際軍事情勢等の真っ只中にあって、来たるべき2021年は、自衛隊に対する国民の期待がこれまでにも増して大きくなって行くと思います。
そんな自衛隊を担う一人ひとりの隊員の皆さんに心から力いっぱいのエールを込めて、山本五十六海軍大将と松下幸之助さんに登場願い、本年最後の「ノーサイド」を閉じたいと思います。
一年間ご愛読頂きありがとうございました。
お元気で!
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |