未だ収束の見通しが全く立たないコロナ禍真っ只中ですが、今年も早や11月を迎えています。日中の寒暖差も大きくなり、新型コロナウイルスに加えインフルエンザの脅威も具体的になって参ります。
「防衛ホーム」紙の読者の皆さん、隊員、ご家族の皆さんには、くれぐれもお体に気を付けられますよう、改めてお願いいたします。
11月は、例年さまざまな自衛隊記念日記念行事が行われる月です。しかし今年は、クラスター発生防止の観点等から、いくつかの行事が中止されたり或いは代替行事に変更される等のやむなきに至っています。
そうした中、11月7日には自衛隊最高指揮官たる菅内閣総理大臣も参列され、防衛省慰霊地区にて令和2年度自衛隊殉職隊員追悼式が行われました。この追悼式は、任務遂行中に殉職された自衛隊員の皆さんを追悼するため、1957年から毎年行われています。本年度は25柱の御霊が顕彰され、警察予備隊以来、顕彰された御霊は2001柱に及びます。(防衛省ホームページ)
菅内閣総理大臣は、謹んで哀悼の誠を捧げられ、次のような追悼の辞を述べられました。
「…御霊は、強い責任感を持って、職務の遂行に全身全霊を捧げ、自衛隊員としての誇りと使命感を、自らの行為によって示されました。
このような有為な隊員を失ったことは、自衛隊にとって、そして我が国にとって、誠に大きな痛手であります。
同時に、かけがえのないご家族を失われた、ご遺族の皆さまの深い悲しみ、無念さを思うと、悲痛の念に堪えません。
改めて、ここに祀られた2001柱の御霊に対し、深甚なる敬意と感謝の意を表します。その尊い犠牲を無にすることなく、ご遺志を受け継ぎ、国民の命と平和な暮らしを守り抜く、そして、世界の平和と安定に貢献するため全力を尽くすことを、ここにお誓いいたします。…」(首相官邸ホームページ。筆者抜粋)
イージスアショアの代替案議論、敵地攻撃能力の保持をめぐる議論、次期戦闘機(F-X)の開発や新設されたサイバー部隊、我が国の主権を頻繁に侵害する中国公船の活発な動き、北朝鮮の動向等のニュースに接して来ている中での追悼式。
菅内閣総理大臣が述べられた自衛隊殉職隊員の皆さんの「ご遺志」に思いを馳せるとき、フト気になり、改めて引っ張り出して来たかつての旧海軍に係る著作があります。
「戦艦大和ノ最期」。著者は、吉田 満さん。学徒出陣で出征され、その後、総員3332名と共に戦艦「大和」の乗員として、「世界海戦史上、空前絶後ノ特攻作戦」、「余リニ稚拙、無思慮ノ作戦」(前掲著)に参加した方です。
もちろん、自衛隊は、旧軍の後継組織ではありませんし、平和憲法の下、国民主権、常に国民と共にある国民のための自衛隊です。旧軍とは全く違いますが…。
「戦艦大和ノ最期」に曰く、「…痛烈ナル必敗論議ヲ傍ラニ、哨戒長臼淵大尉、薄暮ノ洋上ニ眼鏡ヲ向ケシママ低ク囁ク如ク言ウ
"進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ 負ケテ目ザメルコトガ最上ノ道ダ 日本ハ進歩トイウコトヲ軽ンジ過ギタ 私的ナ潔癖ヤ徳義ニコダワッテ、本当ノ進歩ヲ忘レテイタ 敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ 今目覚メズシテイツ救ワレルカ 俺タチハソノ先導ニナルノダ 日本ノ新生ニサキガケテ散ル マサニ本望ジャナイカ"
彼、臼淵大尉ノ持論ニシテ、マタ連日「ガンルーム」ニ沸騰セル死生談義ノ一応ノ結論ナリ 敢エテコレニ反駁ヲ加エ得ル者ナシ
出撃気配ノ濃密化トトモニ、青年士官ニ瀰漫(びまん)セル煩悶(はんもん)、苦悩ハ、夥(おびただ)シキ論争ヲ惹(ひ)キ起サズンバヤマズ…」(「昭和文学全集 第36巻平成元年12月小学館発行より、筆者抜粋」
戦艦「大和」と命を共にした旧軍人の「ご遺志」。切なる本音の話しだと思います。
あれから75年。益々予断を許さない我が国を取り巻く厳しい安全保障環境の中にあって、自衛隊は、しっかりと国民の負託に応えて行かなければなりません。
旧軍人の、このような「ご遺志」は、自衛隊としてしっかりと受け継ぎ、将来、「進歩トイウコトヲ軽ンジ過ギタ…本当ノ進歩ヲ忘レテイタ」などという失敗を再来させるようなことは、断じてあってはなりません。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |