防衛ホーム新聞社・自衛隊ニュース
スペーサー
自衛隊ニュース   1009号 (2019年8月15日発行)
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ノーサイド
北原巖男
夏。あの頃そして今

 大岡信さん著「第六折々のうた」(岩波新書)の「夏のうた」に、作家芥川龍之介さんのこんなうたが掲載されていました。
 兎も片耳垂るる大暑かな(澄江堂句集昭和2年所収)
 教科書等で見た記憶があるあの涼しげな芥川龍之介さんも、今日のようなヒートアイランドジャパンでは、「片耳」を「両耳」に読み替えたに違いありません。兎のような小さな動物のみならず、人間も命の危険を感じるほどの暑さです。
 「防衛ホーム」の読者の皆さん、仲間の皆さん、ご家族の皆さんには、くれぐれも熱中症に気を付けてください!
 ところで、どんなに暑くても、どんなに厳しい環境下でも、片時も「両耳」は勿論、「片耳」とて垂らすことの無い、長い兎の耳集団がいます。
 日本の平和と安全を守るため、今この時間も24時間体制で取り組んでいる防衛省・自衛隊、警察、外務省、内閣官房をはじめとする日本の情報収集・分析・報告態勢です。
 各情報機関等の皆さんは、常にその長い兎の両耳をピンと立てて黙々と任務遂行に取り組んでいます。首相を筆頭とする政策決定者等に、正しい決断を出来るための各種判断材料等を、時機を失することなく、適宜適切に提供するべく全力で努めているのです。
 緊張が続く我が国周辺の動向や中東情勢等、兎の長い耳の果たす役割は、猛烈な暑さの中で益々重要になっています。頑張っていただきたいと思います。
 こうした中、8月6日の広島、9日の長崎の原爆の日を迎え、8月15日が参ります。全国各地で、原爆の悲惨さを伝え、核兵器廃絶を訴える様々な展示会や集会等が行われました。僕は、「みなとパーク芝浦」で開催された「平和展〜過去から学び、令和につなぐ平和の輪〜」を見学しました。
 その中に、広島で被爆された当時12歳の方が、1986年に実名で語った言葉がありました。
 「結婚適齢期に、白血病、原爆症がささやかれ、不妊、流産、死産など、女子性腺異常が世間に伝えられていて、人々は原爆症を恐れ、私たち被ばく女性は、不当な結婚差別を受けました」
 更に「偏見を恐れて、撮影を拒否する被爆者」(広島)と題するパネルには、「健康への不安だけでなく、偏見などの社会的なハンディも被爆者を苦しめます」との説明がありました。被害者が差別を受ける現実。
 僕の近所のご夫人も広島で被爆された一人です。当時小学6年生。病院だった自宅には、医師の父を頼って幽鬼のような姿になった人々が押し寄せました。父は軍医として出征中で不在。医師だった祖父を中心に被爆した彼女を含め家族総出で手当てに取り組んだそうです。まさに地獄絵。そんなご夫人は、今も原爆の語り部として、次代を担う若者たちに平和の尊さを訴え続けています。
 また、やはり近所の方で広島出身の戦争体験世代の方がいます。昨年大学を卒業したばかりの孫娘は一人っ子。ご両親がとても心配される中、今年4月から青年海外協力隊員(JOCV)として中米の開発途上国に勇躍赴任。地域開発のため頑張っています。その彼女から「任国の皆さんは、広島の原爆についてほとんど知らない。だから私、皆さんに原爆について話すことにしたの。広島出身のおじいちゃんの体験談と戦争に対する思いを急いでビデオで送ってちょうだい」との元気なメールが届いた由。「今、孫娘に送るメッセージの原稿を作っているんですよ」と微笑みながら語ったおじいちゃん。近くの区立図書館に行かれ、孫娘が話すときの参考になれば、と本や資料のコピーも作成して送っていました。
 おじいちゃんのメッセージは、次のように結んでいます。
 「今、強く思うことは、今あるこの命や平和が決して当たり前ではないこと、人間は戦争をする為にこの世に生まれて来たのではないこと、誰でも安穏で!平和で!心豊かな人生!を望み、そしてみんなで生きる喜びを深く味わうことだ」
 おじいちゃんのメッセージを参考にしつつ、遥か彼方の地の皆さんに、自分の考えを自分の言葉で一生懸命語っている日本の若者の姿が浮かんで来ます。
 頑張れ!

北原 巖男
(きたはらいわお)
元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事


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