5月21日から24日の間、自衛隊は「令和元年度自衛隊統合防災演習(JXR01)」を実施した。東京オリンピック・パラリンピック開催中に首都直下地震が発生したとの想定で行われた、関係機関や在日米軍も参加する自衛隊最大の防災演習だ。指揮所訓練(CPX)をメインとするJXRに連接して、東部方面隊は独自に各関係機関等と連携した実動訓練(FTX)を実施した。
【海上機動訓練】
5月21日、海上自衛隊横須賀基地では、第31普通科連隊(武山)の初動対処部隊が海上自衛隊の水中処分母船(YDT-03)に乗船し川崎市の東扇島まで移動する、海上機動訓練が行われた。これは、激甚地域への陸路が寸断された場合を想定し、海自と連携して特定重要港(耐震)とされる港に海路で前進後、経路偵察を兼ねた激甚地域への展開に係る時間と要領を検証するものだ。
武山駐屯地を出発したオートバイ2台と人員10名を乗せた車両2台が11時55分、横須賀基地に到着。YDT-03の乗員と調整を実施後、まずバイクを1台ずつクレーンで吊り上げて乗船させた。その後、陸上自衛官が次々と海上自衛隊の艦船に乗り込んだ。なお、使用する艦船はその時の状況で決定される。
当日の環境は傘の意味が無いほどの暴風雨。厳しい環境でも隊員達は粛々と作業を進め、横須賀港での任務を30分ほどで完遂し東扇島を目指して出港した。
【災害情報収集訓練】
5月25日は、朝霞駐屯地訓練場(射場地区)において災害情報収集訓練が実施された。大規模災害発生時は、道路状況の悪化で自衛隊の到着が遅れる恐れもある。東部方面隊は、そのような状況でも円滑な情報収集を可能とするために、今年2月から3月にかけてドローン関連2団体とバイクボランティア1団体との間で、災害時における協定を締結した。今回が協定締結後初の実動訓練で、各団体との連携要領を検証することができた。
訓練は、総監部の要請を各団体が受けた場面から開始された。完全自律飛行型ドローンが上空から倒壊家屋の映像を電送し、その情報に基づき第1偵察隊(練馬)の隊員が現地到着後に被災者を救出。また、バイクボランティアが発見した別の倒壊家屋では、本体を円形のガードで保護した屋内飛行ドローンが内部を捜索。薄暗い屋内で3色のライトを点しながら縦横無尽に捜索する姿は、子供の頃に観たSF映画さながらだ。この機体は原子力災害派遣のような過酷な環境にも耐えうる仕様だという。ドローンやバイクからの映像はリアルタイムで天幕内の6つのモニターに映し出された。見学者らは食い入るようにそれらを見つめていた。
【医療搬送訓練】
その後、医療搬送訓練が同じ朝霞訓練場で行われた。かまぼこ形のエアドームは発災時、現地に開設される救護所だ。切開等の手術はできないが、胸に溜まった血を抜いたり、人工呼吸器の管を通す等の救命処置ができる。自立して歩ける患者は4名、歩けない患者は2名まで受入れが可能。感染症治療室で見られる陰圧ドームを備える最新型で、エアコンも完備だ。救護所の設営は40分〜50分程でできるという。
訓練は2名の緊急患者を現地救護所に受入れる場面から始まった。東部方面衛生隊(朝霞)の医務官、救命救急士等9名が対応した。患者の治療優先度を決めるトリアージと救命処置を実施。その後速やかに患者2名を1・1/2救急車でヘリポート付近まで搬送し、待機していた第12ヘリコプター隊(相馬原)所属のCH-47にストレッチャーで収容した。機内には航空後送器材(MEDEVAC)が2台設置されており、世田谷区三宿の自衛隊中央病院まで航空後送した。
【MEDEVAC】
MEDEVACとは重症患者を安全に航空搬送するための器材で、ストレッチャー、応急治療機器、振動対策パレットで構成される。後送間に応急治療が可能で、CH-47を「ドクターヘリ」化させる。陸上自衛隊で初めて使用されたのは東日本大震災のとき。電柱から転落して負傷した隊員を搬送した。振動対策パレットの効果は絶大で、救急車搬送時は激痛を訴えていた隊員が、決して振動が穏やかとは言えない機内で眠りに落ちたという。CH-47には最大3セットを搭載でき、重症患者3名を後送できる。陸上自衛隊では東部方面隊に6セット、中部方面隊に1セット配備されている。現行型はCH-47専用だが、他航空機にも搭載できる汎用型の研究開発が始まっている。 |