本年3月、厚生労働省が公表した「健康寿命」。介護などを必要とせず日常生活を支障無く過ごせる期間は、男性72・14歳、女性74・79歳(2016年の推計値)。これから益々伸びて行くことでしよう。
さて、本紙には、ユニークなシリーズ欄があります。
「頑張っています 新しい職場 活躍するOB」
自衛隊は、実力組織の性格上、どうしても若年定年制を採用せざるを得ません。肉体的にも精神的にも元気バリバリの皆さんが自衛隊退職後、さまざまな分野に進出して「現在進行形」で活躍して行くことは、定年後の長い人生を生きて行く至極当たり前のことです。
また、自衛隊勤務中に培った技能や知識等を再就職先を通じて社会に還元し、貢献して行くことは、人材の有効活用であり、当人にとっては生き甲斐でもあります。
今、自衛隊ではさまざまな新しい任務が付与され、大きな予算が投入され、新しい装備の導入や部隊が編成されています。それだけに、国民の皆さんの期待は自ずと大きく膨らみ、何かあった場合、自衛隊・自衛隊員による任務完遂は当然だ、当たり前だ、と捉えているようにも感じるときがあります。大きな信頼と同時に厳しい目が向けられています。
もちろん、自衛隊員はいづれもその使命を自覚し、国民の負託に応えるため、どんな状況であろうと任務完遂に全力を尽くします。
しかし、そんな自衛隊員も家庭を営み、子女を育て、長い人生を生きて行かなければならない一人の生身の人間であり、善良な社会人です。自衛隊は、常に国民の自衛隊として士気高く精強であると共に、常日頃から、隊員が若年定年退職後も適切に生活設計して行ける安心感を抱けるような組織でなければなりません。もちろん、再就職先等との間に癒着などあってはならないことは論を待ちません。
他方、少子化の波は、政府のさまざまな施策にも拘らず留まるところを知りません。
総務省が5月4日に公表した4月1日時点の推計によれば、14歳以下の人口は1553万人(前年比17万人減。37年連続減。過去最少)、人口比は12・3%(前年比0・1%減。44年連続減。過去最低)。
こうした中で、優れた人材をいかに確保して行くか。防衛省・自衛隊最大の懸案の一つです。
仮に自衛隊後の生活に懸念があるようでは、それでなくても減り続ける入隊適齢年齢層が入隊をためらうことは必定です。
小野寺五典防衛大臣は、募集環境が益々厳しくなる中にあって、人材を確保するため、OB隊員の活用も含め、既存の業務分担を必ずしも前提とすることなく、如何なる対応策を取るべきか、しっかり検討して行く旨、答弁しています。(3月15日参議院予算委員会)
民間等への再就職のための援護活動の推進と共に、精強性を堅持しつつ再任用制度等を通じたOB隊員の一層の活用は焦眉の急です。隊員がセカンドステージでも活き活きと「現在進行形」で活躍できる態勢の整備は、少子化の直撃を受ける自衛隊の特性と相俟って、これ迄になく求められる時代にあります。
なお、自衛隊員のOBで入会を希望する皆さんを主たる会員としている公益社団法人「隊友会」では、会員の再就職支援の充実・拡大を図るため、職業紹介事業と労働者派遣事業許可申請に必要な定款の変更を、今月19日の定時総会にかけることとしています。会員の皆さんの、特に再々就職支援に向けた特記すべき動きとして注目されます。
しかし、どんなときも大切なのは、隊員の皆さん自身の心構え、対応です。
OBになられたら、チャンネルを切り替えること。
退職によって、今まで味わったことの無い喪失感や孤独感、更には自己否定のようなものに襲われるかも知れません。それは長い間、自衛隊で懸命に頑張り続けて来た証しなのです。退職による反動は自然であり、その大きさは計り知れません。
…でも、いつまでも引きずっていてはダメ。
キーワードは、「過去を追うなかれ!」「前へ!」
新しい仕事だけではありません。現職のときには出来なかったこともあるでしょう。
何でもいい。自分自身で開けた人生の扉の先には、新たな出会いや発見があり、何よりもワクワクしながら「現在進行形」で何かに取り組んでいる未来の自分がいることに気づくでしょう。
かけがえのないあなたのオンリーワンの人生の折々の花。活き活きと咲かせて行きましょう。
そう、合い言葉は、「現在進行形」
北原 巖男(きたはらいわお)中央大学。70歳。長野県伊那市高遠町出身。元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長 |