誰もが安全なワクチンの早期実施とその効果にすがる思いを抱きながら、日々、「身体の健康」と共に「心や精神の健康」を維持するよう耐え続けておられることと思います。
本当に大変と思いますが、どうか頑張って頂きたいと思います。
そんな中、2月1日付け本紙「雪月花」筆者の所谷さんは、2021年1月1日のウイーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートが、80年を超す長い歴史の中で想像だにしなかった史上初の無観客で実施されたことを取り上げ、「改めて新型コロナウイルスに恐怖を覚える」と書いています。
ニューイヤーコンサートの中で、ウイーンフィルの楽団長そしてその年の指揮者が、聴衆の皆さんに向かってスピーチをされることは通常はありません。しかし、今年は異例でした。既にご覧になられた方も多いと思いますが、是非、紹介させてください。
楽団長のダニエル・フロシャウアーさんは、コンサート第二部の冒頭、楽団員を代表して挨拶されました。
「皆さんに希望と明るさのメッセージをお届けします。本日演奏する音楽は、暗い日々も楽しい時も私たちを勇気づけてくれたものです。その意味で、このコンサートが皆さまにとって忘れ難いものになりますように」
今年の指揮者は、リッカルド・ムーティさん(80歳)。ウイーンフィルを指揮されるのは6回目。ムーティさんは、あの有名なアンコール曲 "美しく青きドナウ" の演奏前に、テレビカメラを通じて、世界中の人々に熱く呼びかけられました。
「今私たちはここにいて、音楽が運んでくれるメッセージを信じて演奏しています。音楽家には武器があります。人を殺さない音楽という武器です。音楽は、喜びや希望、平和、兄弟愛そして何よりも愛を皆さんに届けることが出来ます。私たちには音楽家としての仕事だけでなく、使命があります。その使命とは、この社会をより良くする使命です。身体の健康は大切です。精神の健康も同じくらい大切です。音楽は、その精神を健康に保つために必要です。将来、社会を良くするためには、音楽という文化が欠かすことのできない要素であることを考えてください。この思いを込めて"美しく青きドナウ"を演奏します。この美しい曲の音の波の中に喜びと悲しみ、生と死がいっぱい詰まっていることをお聴きください」
ウイーンフィルと言えば、僕は「スター・ウォーズ」・「レイダース」・「E.T.」・「ハリー・ポッター」などの映画音楽を作曲されておられるジョン・ウイリアムスさん(88歳)を指揮者に迎えた2020年1月のコンサートも忘れることが出来ません。正に生身の作曲家自身が自らの楽曲に込めた思いを引き出す指揮。何か楽団員の皆さんもとても嬉しそうに演奏しているように思えました。
皆さんも良く知っているハリソン・フォード主演「インディ・ジョーンズシリーズ」の1作目の「レイダース・マーチ」。そして、いやな上司からのスマホ着メロナンバーワン(!?)の「帝国のマーチ」(「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」から)等。馴染みのある音楽を共有できる喜びにワクワクします。
先日は、かつて東ティモールにあって防衛省の東ティモール国軍に対する能力構築支援業務の推進に尽力され、現在は地方の大学で国際協力や平和構築・地域研究(東南アジア)の先生として頑張っている知人の若い女性が、所属する管弦楽団のコンサートの様子を収めたDVDを送ってくれました。コロナ禍のため延び延びになっていたコンサートがようやく実施出来たとのこと。ステイホームを強いられ、閉塞感が強い生活の中に届けられた一服の音楽に、しばしホッとしている自分を感じました。
幼いころから母の指導も受け、熱心に練習も続けている彼女は第一ヴァイオリンの一人として演奏しているのですが、それでも映像を見ている僕は、隣や前の奏者とちゃんと同じ弦や指の動かし方をしているか心配でなりませんでした。コンサートが無事終わって心底ホッとしました。すぐに電話をすると、「大丈夫デ〜ス!私、音楽大好き!ところで、来年こそフィールドスタディで学生たちを東ティモールに連れて行きたいんです!大丈夫でしょうか?」
元気が伝わってきます。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |