今年も早や2月、この時期、日本に来ている東ティモールの皆さんが盛んに発する言葉があります。
「マリリン!マリリン!」
何かとても女性的な、愛くるしい響きがありますね。
読者の皆さんの中には、すぐアメリカのあの魅惑的な女優マリリン・モンローさんが浮かんで来る人もいるでしょう。あるいは、映画「マリリンに会いたい」一心で向かいの島まで海を泳いで渡った犬のシロの懸命な犬かきとマリリンに会った時の幸せな姿に、自分を重ね合わせる方もいるかもしれません。
「いやいや、マリリンと言えば、平昌オリンピックで銅メダルを獲得したカーリング娘の本橋麻里さんだよ」、「そだねー」などと言った声も聞こえて来るようです。
いづれのマリリンも、自然に笑顔になって来るような温もりが共通しています。
しかし、東ティモールの皆さんが体を縮めて連発する「マリリン!」は、実は東ティモールの公用語のテトゥン語。その意味するところは、切羽詰まっての「寒い!」なのです。
熱帯育ちの彼らは、今まで経験したことの無い日本の寒さに震えあがり、身を縮めているのです。冗談半分・本音半分に、「この寒さに生き残れるか心配だ」とのつぶやきも。
しかし、「マリリン」の語感はあまりにも可愛いくて魅力的です。私には、彼らが寒さに震える様子がむしろ滑稽にさえ見えて、彼らの不安や辛さを共有するにはほど遠い自分を感じています。笑いながら「すぐに慣れるよ」。彼らに対する私の常套句です。
南半球の熱帯東ティモールは、今は雨期。激しいスコールが来た後は、厳しい暑さが戻ってきます。どこまでもゆったりと時間が流れる東ティモール。その中で、植物や野菜たちは、太陽エネルギーをいっぱい受けて、グングン大きく成長して行きます。
東ティモールに住んでいたときこんなことがありました。東ティモールに着任したばかりの女性スタッフが、運転免許証の申請に行ったときのこと。
東ティモールの運転免許証には、日本と異なり、身長・瞳の色・血液型も記述されています。万一のことを考えたとき、東ティモールの運転免許証の方が、進んでいると思います。
彼女が身長測定を受けると、何と彼女が普段から承知している自分の身長よりも7センチも高い計測値を、大きな声で宣告されました。慌てた彼女は、「私は、そんなに大きくない!」と再測を要請。しかし、値は変わりませんでした。抗議する彼女に係官は真顔で言いました。
「寒い日本から太陽がいっぱいの国に来たので伸びたのだ」
「東ティモールに来てまだ10日。7センチも伸びるはずがない」
「いや、伸びる」
彼女の懸命な訴えが受け入れられることはなく、運転免許証はそのまま交付されました。
「太陽がいっぱいの国・東ティモール」は、まぎれもない事実です。普通では信じられないような奇跡が起きないとも限りません。降り注ぐ太陽エネルギーの下では、「もう一つの事実」が大らかに併存することもありかもしれません。何かとても楽しくワクワクします。
ちなみに「マリリン」の反対は「マナス」。東ティモールは、元気に「マナス」真っ只中。
そんな東ティモールは、皆さんの来訪を待っています。
北原 巖男
(きたはらいわお)
元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |