4月9日、統合幕僚監部は平成25年度(平成25年4月1日〜平成26年3月31日)の航空自衛隊戦闘機などによる緊急発進(スクランブル)実施状況を発表した。25年度のスクランブル回数は810回。前年度の567回から約1・4倍の大幅増で、800回を超えたのは平成元年度以来で冷戦終結後初めて。
▽対中国機に415回、
南混団が402回
対象機の国籍は推定を含むが対象国・地域別の最多は中国で415回。次いでロシア359回。両国で約95%を占める。前年度比で中国は109回、ロシアは111回増加した。北朝鮮が9回、台湾が1回。その他26回。
方面隊別最多は南西航空混成団の402回で全体の約半数。次いで北部航空方面隊の222回で、西部航空方面隊は100回、中部航空方面隊は88回だった。いずれも前年度より増加し、北部航空方面隊及び南西航空混成団の増加が顕著であった。
中国機、ロシア機に対するスクランブル回数の急激な増加について、4月10日の定例記者会見で岩崎茂統合幕僚長は、「中国は、経済の発展とそれに伴う軍の近代化、軍の行動活発化などが反映されて(スクランブルの対象となる飛行を)行っているのではないか」、「ロシアも中国と同じ事が言えるが、ロシアは軍改革が進んでおり、演習を行いながら少しずつ能力を上げている」などと述べ、経済の発展による軍の活動の活発化や軍改革の動きが影響しているとの見方を示した。
会見では、11月23日に中国が東シナ海に防空識別区を設定した動きとの関連も問われたが、11月23日以前から既に対中国機のスクランブルが前年比で増加していることから「必ずしもこのこと(防空識別区の設定)だけが原因ではない」と述べた。
▽公表事例で目立つ
中国機の活動範囲拡大
日本の領空周辺を外国機が長距離飛行した事例などについて、統幕は「特異な飛行」として経路、対象機の国籍・機種名等を公表している。25年度の公表事例は計53件。
公表事例はロシア機が最多で31件。オホーツク海や日本海を飛行した経路が殆どだが、12月19日には日本の周辺を周回飛行した。
8月22日には福岡県沖ノ島北西の領海上空を戦略爆撃機TU—95型が領空侵犯。今年度唯一の領空侵犯だった。
中国機の公表事例は21件。領空侵犯は無かった。Y—12型機などによる尖閣諸島沖の東シナ海の飛行のほか、Y—8早期警戒機型・大型爆撃機H—6型による東シナ海〜太平洋間往復飛行、レーダーの周波数など電子情報を収集する機能を持つTU—154型による男女群島(長崎県五島市)沖〜尖閣諸島沖の東シナ海の飛行など、活動範囲の拡大がみられた。H—6、TU—154は25年度が初公表。また、9月9日に国籍不明の無人機(尖閣諸島沖の東シナ海を飛行)と推定される事例を初公表した。
ミニ解説 「スクランブル」
スクランブルとは緊急発進のことである。我が国とその周辺の上空を24時間態勢で警戒監視している航空自衛隊のレーダーサイトや、早期警戒機、早期警戒管制機等からの情報により、領空侵犯のおそれがあると判断した際に航空自衛隊のF2、F15、F4が実施する。対象機に接近して状況確認、行動を監視し、実際に領空侵犯が発生した場合には、退去の警告などを行う。主として千歳、三沢、百里、小松、築城、新田原、那覇の7基地に所在する戦闘機が実施し、24時間態勢でアラートを遂行している。昭和42年以降、領空侵犯事例は25年度までに37件あるが、信号射撃を行った事例は昭和62年12月9日に沖縄本島上空を領空侵犯したソ連の爆撃機TU—16型に対する1例のみ。 |