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自衛隊ニュース   1115号 (2024年1月15日発行)
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ノーサイド
北原巖男
お身体には気を付けられますよう
安全には気を付けられますよう

 2024年(令和6年)元旦。午後4時10分頃、日本国民のおせち気分を一気に吹き飛ばした激震。
 2020年末から群発地震が続いていた能登半島の皆さんを襲った今回の激しい揺れ。何と震度7。気象庁が決めている地震の最高震度。マグニチュードは、記録に残る1885年以降で最も大きい7・6。そのエネルギーは、マグニチュード7・3の阪神淡路大震災の約2・8倍とのこと。
 かけがえのない多くの方々が突然の家屋倒壊や土砂崩れなどによってがれきの下敷きになり生き埋めになりました。お正月を実家で迎え、久しぶりの家族団らんの皆さんも・・・。
 道路の寸断等により被害の全容把握は容易でなく、救援活動の行く手を阻んでいます。孤立したままの集落もあります。
 自宅が全壊したり壊滅的な惨状の真っ只中で九死に一生を得た方々が、依然閉じ込められたり行方不明になっている家族の無事をひたすら願う痛々しい姿が胸に迫ります。
 政府は、岸田首相を先頭に、自衛隊・警察・消防・D-MAT(災害派遣医療チーム)を始め関係の皆さん達が、総力を挙げて、正に昼夜の別なく被災者の皆さんの救命・救助に全力を尽くしています。
 今も強い余震が頻発しています。雪も降り積もる中、二次被害の発生にはくれぐれも気を付けてください。大変ですが、頑張ってください。
 被災者の皆さんは、倒壊を免れた自宅・車の中・身を寄せ合う約400の避難所等において、低体温症が心配される厳しい寒さをはじめ、水・食事・トイレ・入浴・衛生・医療等、健康面での様々な負担や苦痛を強いられています。しかも、そうした厳しい環境下での避難生活は長期間に及ぶことが予想されます。心身共に体調不良となり、持病が悪化したり、健康を害する人たちも増えて来ているのではないでしょうか。車中泊が続く皆さんは、エコノミークラス症候群を発症しやすくなります。更に被災者には高齢の皆さんも多く、既に避難生活が原因で亡くなる「災害関連死」された方々も報じられ、更なる発生が危惧されています。
 こうしたことも踏まえ、政府&自治体、関連企業等は、被災者の皆さんに寄り添い、不足や必要としているニーズの把握・提供に努め、より的確な生活支援を行うべく懸命に取り組んでいます。石川県内外のホテルや旅館等の宿泊施設へのいわゆる「2次避難」も開始されています。併せて、寸断された道路や水道管破損などによる断水を始め、電気・ガス等の生活インフラを早急に復旧すべく努めています。多くの被災者の皆さんが待たれています。広域かつ甚大な被害を受けた酷寒の地での大変な取り組みです。頑張って頂きたいと思います。
 ちなみに防衛省・自衛隊では、発災の翌日1月2日、木原 稔防衛大臣の下に、広域な被災地域を管轄する陸上自衛隊中部方面総監を長とする陸・海・空自衛隊を統括する統合任務部隊(JTF)を約1万人態勢で編成しています。これは、2011年3月11日に発災した東日本大震災に際して、当該地域を管轄する東北方面総監を長とした統合任務部隊が多大な実績を挙げた例に倣ったものと思われます。
 木原防衛大臣は、去る1月5日の記者会見にて、「人命救助活動と被災者の生活支援活動の二つの柱に一切の妥協なく対応作業を進めている」旨を強調。投入自衛隊員については、能登半島の地理的制約や被災地の状況、活動内容等を踏まえて逐次増強し、1月9日以降は約6300名態勢で万全を期しています。航空機約40機、艦艇9隻も展開。
 なお、1月5日には、被災地で医療・衛生活動等を行うため、医官・看護官等を含む予備自衛官及び即応予備自衛官、最大100名に対する召集命令も発出。既に彼らは活動を開始しています。今後、更なる増強が見込まれます。予備自衛官・即応予備自衛官は、常日頃は民間企業等で働いています。被災地の状況等も踏まえ、彼らが所属する民間企業等の皆さんは、被災現場へ向かう彼らの背中を温かく押しながら送りだしてくださっています。真に有難いことです。
 自衛隊は、常に国民と共に在り、いかなる事態の生起に際しても任務の完遂に努め、以て国民の負託に応えて行く国民の自衛隊です。頑張ってください。
 木原防衛大臣は、「自己完結能力を有する米軍」による支援の受け入れについても緊密に連携しながら計画する旨述べています。東日本大震災時に米軍が行った「トモダチ作戦(Operation Tomodachi)」を思い出します。同盟国アメリカとの強い絆に基づく再びのトモダチ作戦。感謝の気持ちを込めて歓迎したいと思います。
 今回の地震の特記事項の一つは、沢山の人々を一気に飲み込んだ東日本大震災以来の「大津波警報」が発令されたことです。ゾッとしました。その時、NHKの山内 泉アナウンサーは、一刻も早く安全な場所に逃げるよう、何度も何度も叫ぶように訴え続けました。
 「ここは大丈夫だと思うのは危険です!情報を待って逃げ遅れないでください!可能な限り高いところへ逃げること!いますぐ避難!東日本大震災を思い出してください!一度逃げたら途中で引き返さないでください!」
 一刻を争うさまざまな緊急事態発生時、マスコミ・アナウンサーの果たす役割は真に甚大であり、その後の結果を大きく左右します。
 この大変強い口調の呼びかけによって、地元の皆さんは命に係わる深刻な事態がひっ迫していることを一気に感じ、速やかな退避行動に移った方が多かったのではないでしょうか。
 アジアで一番新しい小さな国・東ティモールを含め、世界中の国々からお悔やみ・お見舞い・連帯のメッセージ等が寄せられています。
 多くの被災された皆さん、そして彼らに寄り添い捜索・生活支援・復旧活動等に懸命に取り組んでいる皆さんは、それぞれにこれ以上は頑張れないほどに連日頑張って来ておられます。
 くれぐれもお身体には気を付けられますよう、安全には気を付けられますよう、心からお祈り申し上げます。
 ・・・心から声援をお送り申し上げております。
(お詫びと訂正)
 本紙前号本欄の、インドが本年G20の議長国を務める旨の記述は誤りです。インドは昨年議長国を務め、本年はブラジルがG20議長国です。お詫びして訂正申し上げます。

北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事


読史随感
神田淳
<第141回>

必ず起きる南海トラフの大地震

 元日、能登半島が最大震度7、マグニチュード7・6の大地震に見舞われた。多くの家屋が倒壊し、津波も発生した。石川県での死者数は206人に上った(他に安否不明者が52人、11日現在)。道路が寸断され、多くの集落が孤立した。被災地で断水、停電が続き、避難した人々は2万6千人を超え、避難生活の長期化が予想される。
 あらためて日本は地震国だと思う。物理学者寺田寅彦は、「自然ほど伝統に忠実なものはない」と言う。地震と津波は、文化的伝統以上に強固な自然の伝統のように日本列島に出現する。その中で、歴史的に南海トラフを震源とする巨大地震(南海地震)が名高い。
 遠州灘の沖合から四国の沖合に延びる水深4千メートルの深い溝(南海トラフ)で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下にゆっくり沈み込んでいる。そのため境界面の岩盤にひずみが蓄積されるが、蓄積されたひずみは、100年から200年に一度、境界面の断層の滑り破壊となって解放される。これが巨大地震の震源となり、大津波を発生させる。
 歴史資料の最初に現れた時から現在まで、南海トラフを震源とする大地震(南海地震)は9回発生している。一般に南海トラフの東半分で起きた地震を東南海地震、さらにその東(駿河トラフともいう)で起きた地震を東海地震と呼ぶが、過去南海地震のほとんどすべてが東南海地震、東海地震と同時に、または連動して発生している。
 684年の天武地震‥マグニチュード(M)8と1/4。東海、東南海地震と同時発生。伊豆諸島が噴火。
 887年の仁和地震‥M8〜8・5。東海、東南海地震と同時発生。富士山、伊豆諸島が噴火。
 1096年の永長地震(M8・0〜8・5)・1099年の康和地震(M8・0〜8・3):二つ併せて永長・康和地震と呼ぶ。東海、東南海地震と連動して発生。
 1361年の正平(康安)地震:M8と1/4〜8・5。東海、東南海と同時または2日間隔で発生。
 1498年の明応地震‥M8・2〜8・4。東海、東南海と同時発生。太平洋岸の広範囲に巨大津波。津波による死者多数。波高は静岡県で10〜15メートル。この地震で浜名湖が海とつながる。
 1605年の慶長地震‥M7・9〜8・0。
 1707年の宝永地震‥M8・4〜8・6。東海、東南海と同時発生。広範囲で家屋倒壊(倒壊家屋数6万余)、太平洋岸に大津波。地震と津波による死者2万人。富士山が噴火。
 1854年の安政地震: 12月23日に安政東海地震・安政東南海地震(M8・4)、翌日12月24日に安政南海地震(M8・4)が連動して発生。前者では、家屋の倒壊・消失3万件、死者2〜3千人。太平洋岸に大津波。三重県で10メートルに達す。後者も太平洋岸に大津波。和歌山県串本で15メートル、高知県久礼で16メートル。死者・数千人。
 1944年の昭和東南海地震‥M7・9。紀伊半島から伊豆半島に津浪被害。死者行方不明1,223人。1946年の昭和南海地震:M8・0。2年前の昭和東南海地震に連動して発生。太平洋岸に津波被害。死者1,330人。
 南海トラフの最後の地震(昭和南海地震)後、78年経った。南海トラフ地震は約100年の周期で繰り返される。政府の地震調査研究推進本部は、マグニチュード8〜9クラスの南海トラフ大地震が2013年から30年以内に70パーセントの発生確率で起きるとしている。また地震学者尾池和夫(元京大総長)は、発生確率の高い年を2038年としている。
 大地震は必ず来る。日本の宿命である。人は地震を止めることはできない。強い精神をもって、地震防災に力を尽くして生きる他ない。
(令和6年1月15日)

神田 淳(かんだすなお)
 元高知工科大学客員教授。
 著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。


令和6年能登半島地震において、被害を受けられた皆様に、衷心よりお見舞い申し上げます
防衛ホーム新聞社

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