元日、能登半島が最大震度7、マグニチュード7・6の大地震に見舞われた。多くの家屋が倒壊し、津波も発生した。石川県での死者数は206人に上った(他に安否不明者が52人、11日現在)。道路が寸断され、多くの集落が孤立した。被災地で断水、停電が続き、避難した人々は2万6千人を超え、避難生活の長期化が予想される。
あらためて日本は地震国だと思う。物理学者寺田寅彦は、「自然ほど伝統に忠実なものはない」と言う。地震と津波は、文化的伝統以上に強固な自然の伝統のように日本列島に出現する。その中で、歴史的に南海トラフを震源とする巨大地震(南海地震)が名高い。
遠州灘の沖合から四国の沖合に延びる水深4千メートルの深い溝(南海トラフ)で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下にゆっくり沈み込んでいる。そのため境界面の岩盤にひずみが蓄積されるが、蓄積されたひずみは、100年から200年に一度、境界面の断層の滑り破壊となって解放される。これが巨大地震の震源となり、大津波を発生させる。
歴史資料の最初に現れた時から現在まで、南海トラフを震源とする大地震(南海地震)は9回発生している。一般に南海トラフの東半分で起きた地震を東南海地震、さらにその東(駿河トラフともいう)で起きた地震を東海地震と呼ぶが、過去南海地震のほとんどすべてが東南海地震、東海地震と同時に、または連動して発生している。
684年の天武地震‥マグニチュード(M)8と1/4。東海、東南海地震と同時発生。伊豆諸島が噴火。
887年の仁和地震‥M8〜8・5。東海、東南海地震と同時発生。富士山、伊豆諸島が噴火。
1096年の永長地震(M8・0〜8・5)・1099年の康和地震(M8・0〜8・3):二つ併せて永長・康和地震と呼ぶ。東海、東南海地震と連動して発生。
1361年の正平(康安)地震:M8と1/4〜8・5。東海、東南海と同時または2日間隔で発生。
1498年の明応地震‥M8・2〜8・4。東海、東南海と同時発生。太平洋岸の広範囲に巨大津波。津波による死者多数。波高は静岡県で10〜15メートル。この地震で浜名湖が海とつながる。
1605年の慶長地震‥M7・9〜8・0。
1707年の宝永地震‥M8・4〜8・6。東海、東南海と同時発生。広範囲で家屋倒壊(倒壊家屋数6万余)、太平洋岸に大津波。地震と津波による死者2万人。富士山が噴火。
1854年の安政地震: 12月23日に安政東海地震・安政東南海地震(M8・4)、翌日12月24日に安政南海地震(M8・4)が連動して発生。前者では、家屋の倒壊・消失3万件、死者2〜3千人。太平洋岸に大津波。三重県で10メートルに達す。後者も太平洋岸に大津波。和歌山県串本で15メートル、高知県久礼で16メートル。死者・数千人。
1944年の昭和東南海地震‥M7・9。紀伊半島から伊豆半島に津浪被害。死者行方不明1,223人。1946年の昭和南海地震:M8・0。2年前の昭和東南海地震に連動して発生。太平洋岸に津波被害。死者1,330人。
南海トラフの最後の地震(昭和南海地震)後、78年経った。南海トラフ地震は約100年の周期で繰り返される。政府の地震調査研究推進本部は、マグニチュード8〜9クラスの南海トラフ大地震が2013年から30年以内に70パーセントの発生確率で起きるとしている。また地震学者尾池和夫(元京大総長)は、発生確率の高い年を2038年としている。
大地震は必ず来る。日本の宿命である。人は地震を止めることはできない。強い精神をもって、地震防災に力を尽くして生きる他ない。
(令和6年1月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |