台湾が新型コロナウィルス対策に成功し、世界の民主主義国から賞賛されている。
台湾はどのようにして成功したか。それは感染症対策の常道である検疫(水際対策)と隔離を、迅速に徹底して行ったことに尽きる。昨年12月武漢市で新型の感染症が発生したらしいという情報を得た台湾は、12月31日より武漢市からの直行便の乗客に対する厳しい検疫を開始した。今年1月の始め専門家2名を武漢に派遣して調査、危険な感染症であることを確信した。そして1月26日には湖北省から来る中国人の入国禁止、2月6日には中国全土からの入国の全面禁止に踏み切った。
3月中旬から欧米で爆発的に感染が拡大した。台湾は入国制限を順次拡大し、3月19日にはすべての外国人の入国を禁止した。台湾人の帰国はピーク時一日数千人に達したが、帰国者に対する検疫と隔離を徹底して実行した。最大時で5万人に達した管理対象者の健康状態を追跡し、感染者とその濃厚接触者の特定と追跡(疫学調査)を徹底した。こうして台湾は新型コロナ感染第二波の押さえ込みにも成功した。9月17日時点で感染者累計503人、死亡者7人に過ぎず、新規感染者は4月中旬以来ほとんど発生していない。なお、世界の感染者累計数は約3千万人に達し、死亡者94万人、日本の感染者累計7万7千人、死亡者1,482人でまだ増え続けている。
台湾は、民主主義でコロナ禍の非常事態にも行政がよく機能する、立派な国になったと思う。台湾は中国の圧力で、世界の主要国から国家として認められていないが、台湾こそ国家らしい国家である。国民の政治参加の意思は極めて高く、2020年1月の総統選挙の投票率は75%を超えた。日本と違い、若者の投票率が高い。
台湾の「国家」の歴史は紆余曲折している。中国は「台湾は中国の不可分の領土であり、中国は一つしかない」と主張するが、中華人民共和国の台湾支配を正当化する歴史的根拠があるわけはない。また、李登輝が総統になった頃から台湾人の自己認識が変わった。1992年、自分を台湾人と自己認識する人は17・6%、中国人と認識する人は25・5%、台湾人でもあり中国人でもあるとする人は46・4%であったが、2019年の調査では、台湾人と認識する人58・5%に増加、中国人と認識する人3・5%、台湾人でもあり中国人でもあるは34・7%となっている。若い人ほど台湾人であると認識する比率が高い。こうした帰属意識調査をみると、台湾は中国とは別の独立した国家と考えるのが自然である。
コロナ禍で、アメリカだけでなく、ヨーロッパでも嫌中国、親台湾の感情が生じている。チェコ上院議長ビストルチルらの台湾訪問はその現れである。訪問に反対する中国の外相王毅の「深刻な代償を払わせる」といった発言に、ヨーロッパ各国が反発している。
台湾と最も連携すべきは日本である。台湾はかつて日本の統治下にあった。日本の統治のすべてを悪とするような韓国人と異なり、台湾人は日本の統治の非は非とし、是は是とする。客観的な評価をする人たちである。その結果、日本をよく理解する希有な親日国となっている。現総統蔡英文は「日本と安全保障などについて話し合いたい」と言っている。日本は価値観を共有する台湾と連携を深めるのがよい。日本はすでに中国から国家の存立を深刻に脅かされていると知るべきである。
(令和2年10月1日)
神田 淳(かんだすなお)
高知工科大学客員教授著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |