ここは東京世田谷区の三軒茶屋。同じ区内にある下北沢と並ぶ都内屈指の若者の街。三茶(さんちゃ)&下北(しもきた)は、若者たちの会話に飛び交う二つの身近な街の愛称です。世田谷区民の筆者でもワクワクします。
そんな三軒茶屋の駅近くのメインストリートに面して、ごく普通の地味なビルがあります。初めて訪問するときは、中に入るのにチョットした勇気がいるなぁと思う若者もいることでしょう。
でもそんな彼らも、開かれた一室に入った途端、若くて元気な人間味溢れる世界に飛び込んだ自分を直ぐ実感するに違いありません。
出迎えたのは、政府専用機キャビンアテンダントのキャリアを持つ女性自衛官、イケメン自衛官等7名。アットホーム、そしてそれぞれが持っている特性をフルに発揮しながら、また地域の特性をも踏まえながら、自衛官募集業務に日々取り組んでいる東京地方協力本部世田谷募集案内所のめっぽう明るい士気旺盛な陸・海・空の皆さんです。率いるは、山本英典所長。
決して広い部屋ではありませんが、所員の創意工夫による模様付けが温かい雰囲気を醸し出しています。新型コロナウイルスを吹き飛ばす所員の意気込みと訪問者に対する優しい心遣いが伝わって参ります。同募集案内所のホームページに曰く「日本一おしゃれな事務所で聞こう 自衛隊お仕事インフォメーション」
ふと気が付くと、壁には「所長カレリン山本」と大きく書かれた額入り写真が。背はそんなに高くなく、細身で両耳にとても大きなタコが出来ているカレリンさんに質問です。
「失礼ですが、カレリンというお名前は、洗礼名か何かなのですか?」
「いえ、違います。1988年・1992年・1996年のオリンピックで3連覇され、霊長類最強の男と言われたグレコローマンレスリング130キロ級のアレクサンドル・カレリンさんの名前からスタッフが付けてくれたのです。長年、自衛隊体育学校でフリースタイル60キロ級レスリングの選手として、また指導者としてやってきた私が、最も尊敬する選手はカレリンさんだと話したところ、「所長、これからはカレリン山本で行きましょう!カレリンさんの名前を冠するからには、最強の所長になってくださいよ!私たちも頑張ります!」とアッと言う間に決定した次第です。以来カレリン山本で来ているんですよ。体重は本物のカレリンさんの半分以下です。」
令和元年度の防衛白書は、「防衛省・自衛隊に対する期待が高まる一方で、社会の少子化・高学歴化の進展のほか、近年の好調な景気・雇用状況などにより、自衛官の募集環境は、厳しい状況にある。このような状況において、防衛省・自衛隊は、募集対象者などに対して、自衛隊の任務や役割、職務の内容、勤務条件を丁寧に説明し、確固とした入隊意思を持つ優秀な人材を募る必要がある」と記述しています。
こうした中での、突然の新型コロナウイルス禍の発生。しかも未だ脅威は続いています。
人材の確保を任務とする全国の第一線に在る地方協力本部・募集案内所の皆さんは、最も効果的と言われる関係者との直接対面を始め、外での各種広報・募集活動は著しく制限されてしまいました。更なるインターネットの活用や様々な工夫を取り入れるなど、それぞれ懸命な努力を重ねて来ていることと思います。
カレリン山本所長によると、特にコロナ以降、同募集案内所のホームページを見て問い合わせをして来る若者が著しく増えたとのこと。所員のモチベーションは高く、事務所を訪問し易くする工夫やムービーの採用、毎週更新し最新の情報発信等に努めている由。「但し」と同所長は断り、「まず足を運んで顔と顔を合わせて話すこと、直接のコンタクトが一番重要であることには変わりありません」
そしてレスリングの選手・指導者を経験した方ならではの一言も。
「それぞれにスタイルが違う各人の特性をフルに活かして行く。また、自分の持つ良さに気が付かない人も多いので、その良さを知らしめ引き出して行く。それによって本人も伸びるんですよ」
全国の地方協力本部・募集案内所には、カレリン山本のような自衛隊体育学校出身の「○○○○□□」が頑張っておられることと思います。
そんな皆さんを始め、コロナ禍の中、各地で厳しい募集業務に携わっている皆さんに、心から力いっぱいのエールを送ります!
頑張ってください!
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |