今まで私にとってテレビ番組や新聞等の報道でしか触れたことのないJAL123便墜落事故ですが、この度事故現場である御巣鷹山の尾根に慰霊登山を兼ねた現地訓練機会を得ました。予てから一度は訪れてみたいと思っていた場所でした。事故から32年という長い年月が過ぎた後ではありますが、私が感じた率直な感想を述べたいと思います。
事故現場は想像していた以上に急斜面でとても人間の住めるところではなく、わずかな距離を移動するにも一苦労であり、気が付くと私と周りの皆も息切れしていました。現在山を管理している案内の方によると、遺族の方々には高齢者も多く、慰霊登山は苦労しているとのことでした。
登山当日は天気がよく、JAL123便が墜落の数秒前に右主翼をひっかけたというU字溝をはっきりと見ることができました。事故から長い年月を経ているのに、不自然に山が削られたままの光景は非常に不気味でした。さらに、事故当時引き起こされた山火事で黒焦げになった大木がそのまま残っており、当時にタイムスリップしたような、凄惨たる現場の真っ直中にいるかのような感覚に陥りました。
多くの犠牲者の墓標には「・・・の魂よ。安らかなれ」「・・君。安らかに」等書かれておりましたが、機体に異状が発生してから墜落までの30数分の間に激しい縦揺れ、横揺れ及び偏揺れといった複雑な揺れに襲われ、訳も分からない状態で命を奪われて、果たして安らかに眠れるのでしょうか?
墓標に書かれている名前や、墓標の近くに置かれていた犠牲者の生前の写真からは、恐怖、怒り、無念といった感情が伝わってくるようでした。慰霊登山に訪れる方々は平日にも関わらず後を絶たず、山道ですれ違う度にあいさつを交わしました。中には喪服を身にまとい、こちらのあいさつにも反応せず、うつむいたままゆっくりと事故現場を目指している方もおりました。おそらく遺族の方だったのでしょう。事故の悲痛な思いを胸に秘めているようで、32年という年月ではまだまだ悲しみは癒えるものではないのだと痛感しました。
この様な事故は二度と起こしてはならず、風化もさせてはいけません。
2017年現在、事故をリアルタイムで見聞きした世代は減りつつあり、この様な現地訓練(慰霊登山など)や昨年研修した日本航空安全啓発センターへの研修は、風化防止に非常に効果があると思いました。
昨年の部外講話で来基された自治医科大学教授の講師が話されていたように「危険は無くせない。リスクを下げよ」といった意識を持ちつつ、「目配り。気配り。心配り」といった心の眼でもって、無くならない危険という雑草を初期の段階で摘み取り、事故防止に努めていきたいと思います。 |