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私が読んだこの一冊 |
「分断されるアメリカ」 |
警務隊本部 3陸尉 森田 洋 |
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本書は、「文明の衝突」で有名なサミュエル・ハンチントン氏が書かれたもの。
9・11テロ事件に遭遇し、現代アメリカのナショナルアイデンティティ(国民としての自己意識)とは何か、その顕著性とその実体に生じつつある変化を分析し問題を浮き彫りにしている。そして、歴史的に、学問的に、この間題を解き明かしている。
アメリカは17世紀と18世紀の入植者によって築かれた社会である。ナショナルアイデンティティには四つの要素すなわち、「人種」、「民族性」、「信条」、「文化」がある。しかし第2次世界大戦勃発後は、南欧と東欧からの移民とその子孫が大量にアメリカ社会に同化したため「民族性」は殆ど消え去り、1965年に移民法が成立すると「人種」ももはや問題にされなくなった。そして20世紀末期にはナショナルアイデンティティの衰退が顕著となり、将来におけるアメリカの実体と顕著性は大きく変わることとなった。
しかし、2001年9月11日の悲劇的事件は、アメリカのナショナルアイデンティティを再び前面に押し出すこととなった。
自分たちの国に危険が迫っていると考える時、アメリカ人は国に対して強い帰属意識を抱く。しかし、脅威を感じなくなればまた他のアイデンティティがナショナルアイデンティティより優先するかも知れないという実体を示す可能性もある。アメリカ国民としてのナショナルアイデンティティがどのように醸成されていったか、今のアメリカが直面するのはいくつかのカテゴリーに分断された国家で、歴史を克明に描き出している。
超大国が直面する分断の危機、針路は世界主義か、帝国への道か、それともナショナリズム(民族国家の統一)か? アメリカ人のアイデンティティの問題を正面から取り上げている一冊である。(集英社刊、定価2,940円) |
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