10月31日に行われた衆議院議員選挙。
全国の自衛隊員の皆さん、本紙読者の皆さんには、それぞれ判断するところに従って一票を投じたことと思います。
本紙がお手元に届く頃には、岸田首相率いる第2次本格内閣が始動。国民の期待に応え得る政治・外交の推進、公約の実現に頑張って頂きたいと思います。
少子化やコロナ禍等に伴う経済規模の縮小等が続く国内諸情勢、不透明感を募らせ厳しさを増している国際情勢の中にあって、防衛省・自衛隊としても、早急に取り組むべき課題や直面する懸案事項は山積しています。常に国民と共にある国民の自衛隊。いかなる場合にも国民の負託に応え、国民の信頼に応えて行かなければならない崇高な使命を負っています。
岸田首相・岸防衛大臣のもと、防衛省・自衛隊の皆さんには、しっかりと過去に学び、これからを見据え、必要かつ十分な情報の収集・分析・活用に努め、議論を尽くし、国民の理解と支持を基盤とする判断・政策決定・態勢の整備・実施に努めて行っていただきたいと思います。OBの一人として国民の一人として、心から力いっぱいの声援を送っています。
ところで、今回の選挙・国民審査を通じて気になったことに触れてみたいと思います。
今回の選挙には、全465の議席を目指して1051人が立候補しました。そのうち女性候補者は186人・全体の17・7%。当選者は45人(小選挙区24人・比例代表21人)。当選者に占める女性の比率は、9・7%。前回の平成29年10月の選挙(47人当選・10・1%)よりも後退です。
女性議員を増やすため、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」(所謂「候補者均等法」2018年施行・2021年6月改正)は、国政選挙における男女の候補者を出来る限り均等にするようにとの努力義務を各政党に課しています。更に2020年末、政府は「第5次男女共同参画基本計画」を閣議決定し、国政選挙の候補者に占める女性の比率を2025年までに35%にするとの目標を掲げています。
こうした中で、初めて実施された今回の選挙。女性候補者の比率は目標の約半分に過ぎず、当選者に至っては1割を切っています。
来年2022年には参議院議員選挙もあります。前回の令和元年7月の選挙では、124人の当選者のうち女性は28人(22・6%・過去2番目の高さ)。現在、参議院全体では245人中56人(22・9%)と過去最高の比率を示しています。各政党には、より一層女性議員を増やして行く積極的な判断と行動が求められます。
今年3月に「世界経済フォーラム」が発表した「2021年版世界男女格差指数ランキング」、所謂ジェンダーギャップでは、156か国中、日本は総合ランキング120位、「政治への関与」に至っては147位。G7の最下位となっています。
ちなみに、僕が関わっている東ティモールは、総合ランキング64位、「政治への関与」は62位。一院制の国民議会65人中、女性議員は25人・全議員の38・5%を占めています。
また、新聞に掲載された全当選者の紹介を見ていて、改めて感じたのは、当選者のほとんどが国内外の大学や大学院卒であること。他方、大学(大学院)卒以外の方は、これはあくまでも僕が新聞で調べた限りなのですが、高卒(中退を含む)8名、専門学校卒2名、短大卒3名。あまりにも少な過ぎると思いました。
文部科学省の「令和2年度学校基本調査(確定値)の公表について」(令和2年12月25日)によれば、「大学(学部)進学率は54・4%で、前年度より0・7ポイント上昇し、過去最高」とのこと。言い換えれば、大学に進学しない人たちが半数弱存在し、年代がさかのぼれば、もっともっと沢山の皆さんが存在しています。
ちなみに岸田首相(1957年生まれ)当時の皆さんの大学進学率(1975年)は現在の半分の約27%。国民の7割強の皆さんは大学に進んでいません。もちろん私たちの国の将来を託す政治エリートの皆さんの育成・選出は重要であり必要と思います。しかし同時に、多くの皆さんが自分たちの身近な代表だと判断でき、自分たちと乖離しないような候補者・当選者が、もっともっと増えて来ることも極めて大事なのではないでしょうか。学歴だけを見て、このように思うことには厳しい異論もあるでしょうが・・・僕は思います。
衆議院議員選挙と同時に行われたのが最高裁判所裁判官国民審査。
国民審査の対象となっている裁判官(今回は、15名中、11名)で、やめさせたいと判断する場合には、その裁判官の欄に「×」印を付ける憲法上の制度です。皆さんは、どのように判断し行動されたでしょうか。結果としては、11名全員が信任されました。もっとも、1949年の制度開始以来、信任を得られず罷免された裁判官は誰一人いないとのことです。
僕の判断材料は、投票日の数日前に配布された「最高裁判所裁判官国民審査公報」(東京都選挙管理委員会)のみ。しかも11名中4名が、「最高裁判所において関与した主要な裁判」については、「最高裁判所判事就任後日が浅いため、特に記すべきものはありません」と全く同じ文言で記述しているのです。あまりにも判断材料が乏しく、制度の形骸化は否定できません。
内閣が任命を考える最高裁判所裁判官の候補者に対して、事前に国会での参考人聴取等の導入を求める声も出て来ています。こうした中、僕が目にしたのは、高校の先輩でもある元最高裁判所裁判官の山浦善樹(やまうら よしき)さんのインタビュー記事。そこには、国民審査をきっかけに裁判官の皆さんがもっと自分を表現する努力をして欲しい、顔の見える情報を発信し国民との対話を深めて欲しい、やり取りの中にこそ本当の信頼や権威は宿ると思う等の趣旨が報じられていました。(2021年10月29日付け朝日新聞)
皆さんは、どう判断されますか?
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |