戦前、日本は満州事変以降おそらく国策を誤り、日米戦争に行き着いて国を滅ぼしたが、関東軍の行動を全面的に支持し、国民的熱狂をつくりあげたのは、朝日、毎日を主とする大新聞だった。満州事変後、全国の神社に必勝祈願の参拝者が押し寄せ、憂国の士から手紙が陸軍大臣の机の上に山のように積まれた。こうして軍部が世論に支持されるまで、新聞の果たした役割は決定的に大きかった。国民は新聞により軍国主義に導かれた。
日本の国際連盟脱退も、戦前の誤った国策決定の一つだったが、脱退を煽ったのも大新聞だった。閣議で荒木陸軍大臣が連盟脱退を主張したが、斎藤首相はとんでもないと言って押さえた。これに対し新聞は、今の内閣は何だ、連盟からひどいことを言われてヘイコラするのか、連盟内の孤立と連盟外の孤立に何の相違もない、と主張して脱退を煽った。政府は、連盟が日本軍の満州からの撤退勧告案を採択したのを機に、脱退を決意せざるを得なくなった。
日本政府の訓令に従って連盟を脱退した全権大使松岡洋右は、脱退すべきでなかったと考えており、日本に帰っても皆に顔向けできないと消沈していた。しかし、新聞はこぞって松岡を礼賛し、これほどの英雄はいないともちあげ、これを知った松岡は意気揚々と帰国した。
大新聞の、特定方向にキャンペーンを張る報道体質は、戦後も全く変わっていない。そして戦後に著しいのは、日本を悪とする反日的キャンペーンであり、その典型例が朝日による従軍慰安婦報道である。朝日は慰安婦が強制的に戦場に連行された女性たちであると、事実に基づかない「慰安婦=性奴隷」を世界に広めた。朝日の慰安婦キャンペーンは、吉田清治という得体の知れない文筆家の、「私は済州島の女性200人余りを強制連行して慰安婦にした」という全くの作り話を紙面に掲載し続けたことに始まる。これが虚偽だと判明した後も朝日は訂正しなかったため、海外に誤解が拡散し、日韓関係を悪化させた。やっと2014年になって朝日は虚偽を認め、記事を取り消したが、謝罪はなく、強制連行の有無については、「ひとさらい」のような狭義の意味の強制連行はなかったものの、広義の意味での強制については意見が分かれるとした。そして、問題の本質は強制連行ではなく、慰安所で女性の自由が奪われ、尊厳が傷つけられたことにある、などと主張し、現在に至っている。
2017年、市民団体が寄贈した慰安婦像をサンフランシスコ市長は、市として正式に受け入れる文書に署名した。吉村大阪市長はこれに異議を唱え、長年続けてきたサンフランシスコ市との姉妹都市関係を破棄した。これに対し、朝日は「姉妹都市 市民協力を続けてこそ」という社説で吉村市長を糾弾した。吉村市長は、ツイッターで「朝日は僕を批判する前にやることがあるでしょ」と痛烈に反論した。
朝日新聞の偏向報道は、日本人の名誉を毀損してきた。その影響はすでに出ているが、今後も世界における日本の国の尊厳を毀損し、日本人の利益を損なうだろう。
このように、大新聞の報道ぶりが国益を損なうことは度々あるが、それでも中国のような報道の自由のない社会より、日本がはるかによい社会であることは間違いない。我々は、特定の方向に恣意的なキャンペーンをする大新聞の報道体質をよく知り、軽々に信用せず、ネット情報を含む複数の情報源に接して真実を見極め、健全な世論を発信して民主主義による統治に反映させ、国益を守っていきたい。
(令和3年9月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |