日韓の慰安婦問題が続いている。文在寅大統領は、朴槿恵前政権が2015年日本政府と締結した「慰安婦問題は日韓両国間で最終的かつ不可逆的に解決された」という合意を、2018年一方的に破棄した。
韓国の市民団体である「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(略称「正義連」、旧「挺対協」)」は、1990年結成以来、慰安婦が旧日本軍による暴力で強要された性奴隷であるとの、活発なプロパガンダを国内外に展開してきた。国連人権委員会は「挺対協」のアピールを受け、1996年、慰安婦を「軍事的性奴隷」とする「女性に対する暴力に関する報告書(クラマスワミ報告書)」を出した。この報告書の影響下、2007年にはアメリカ下院が「従軍慰安婦」にかかわる対日非難決議を行った。これに続いてオーストラリア、カナダ、フィリピン、インドネシア、オランダ、EUの議会で同様の日本非難決議が採択された。
2011年「挺対協」はソウルの日本大使館の前に少女慰安婦像を設置した。これを皮切りとして、「挺対協」は国内だけでなく、世界各地に住む韓国系市民と協力して、世界に少女慰安婦像を拡散している。
慰安婦問題とは何なのか。いわゆる従軍慰安婦とは、日中戦争および大東亜戦争中、日本軍が駐屯した各地に設置された慰安所で働く公娼であった。慰安所は軍が直接設置して運営したものもあったが、ほとんどは民間の業所を軍専用の慰安所に指定し、管理する形態だった。軍は運営守則、利用時間帯等を定め、許可証を発行し、定期的な性病検診を義務づけた。慰安婦は軍の性奴隷といった存在ではなく、普通の売春婦だった。前線での慰安所が軍と同様の危険にさらされていたのは確かだが、その分高収益だった。慰安婦は実家に送金したり、貯蓄して戦後ほとんど無事帰還した。
最も深刻な誤解は、慰安婦たちが官憲によって強制連行されたというフィクションである。これは吉田清治という日本人による、済州島の女性十数名を慰安婦として強制連行したという全くウソのレポートを、1982年朝日新聞が掲載したことに端を発している。当時の朝鮮(韓国)の若い女性たちが公娼になった道のりは、斡旋業者が貧しい階層の戸主に若干の前借金を提示し、就業承諾書をもらい、娘たちを連れていく過程だった。娘たちには強制と感じられることもあっただろう。しかし、日本の官憲が婦女子を強制連行するようなことはなかった。
1970年代まで慰安婦の実情をよく知る人たちが多数生きていたときには、慰安婦問題は提起されなかった。時が40年以上過ぎ、そういう人たちがいなくなってその記憶が薄れて来るや、架空の新たな記憶が作られ、慰安婦問題が登場した。この間、韓国で反日教育が進み、蓄積した反日感情のもとに慰安婦問題が発火した。
1910年の日韓併合は韓国の大きな屈辱だった。戦後(解放後)、韓国は日本による統治時代を「日本民族の野蛮で侵略的な資質を露わにした極悪非道の最悪の統治だった」とし、史実を改竄・捏造してこうした歴史観をつくりあげ、国民を教育してきた。こうして強い反日感情をもつようになった韓国人は、慰安婦問題を「野蛮な日本民族が韓民族の血を陵辱した事件」として、フィクションをも信じることになる。
この問題は、虚偽はあくまで排し事実本意でなければならないが、個別事実だけでなく慰安婦問題の真実の全体像を明らかにして、良識を主張していく必要がある。
(令和3年5月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |