4月16日(日本時間では17日未明)ホワイトハウス行われた菅首相とバイデン大統領の日米首脳会談。「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」と題する日米共同声明が発表されました。
その中に、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協同する必要性を認識した」との記述が盛り込まれていること等から、テレビや新聞各紙は「日米声明、台湾明記」・「日米、対中へ同盟深化」・「日本、防衛力強化」・「中国、強烈な不満と断固たる反対」等の大きな見出しを打って報じています。
台湾情勢については、3月23日に米インド太平洋軍司令官に指名されたジョン・アキリーノ海軍大将が、中国による台湾侵攻の脅威は深刻であり、多くの人が理解しているよりも差し迫っているとの考えを示しています(3月24日AFP)。また、4月12日には過去最多25機の中国の戦闘機や爆撃機等が台湾の防空識別圏に侵入。空母「遼寧」が演習を続けるなど緊迫の度合いを増しています。
日米首脳会談と同じ日に台湾に近接する沖縄県与那国島を訪問、与那国駐屯地を視察された岸防衛大臣は、記者の質問に対して、台湾とは基本的な価値観を共有する大切な友人であり、良い交流の歴史もある。我が国としては当事者間の対話によって平和的に解決されることを期待する立場である。防衛省・自衛隊としてもこうした立場に基づいて、適切に対応して行く旨答えています(防衛省ホームページ)。
日米共同声明は、その内容が外交・防衛や経済・気候変動等多岐にわたることから、またトランプ政権と異なり特にバイデン政権の下では、日米間で合意されるに至るまでには、双方の政府部内、関係省庁の皆さんが、総力を挙げて検討・調整等に取り組んで来たことと思います。
もちろん防衛省においても、憲法・防衛計画の大綱・我が国の防衛体制・日米安全保障体制、去る3月16日に日本で行われた日米安全保障協議委員会2+2における「共同発表」等を踏まえ、地域情勢や厳しさを増している安全保障環境に対する冷静な分析・評価等を背景に、岸防衛大臣のリーダーシップの下、防衛大臣を補佐する車の両輪である内部部局と幕僚監部の皆さんが、夜を徹してギリギリの検討・交渉等をされて来られたに違いありません。
そうした過程を経て発出された共同声明です。
例えば、共同声明は、「日本は、同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」「日米両国は、尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と明言し、更に「日米両国は、困難を増す安全保障環境に即して、抑止力及び対処力を強化すること、サイバー及び宇宙を含むすべての領域を横断する防衛協力を深化させること、そして、拡大抑止を強化することにコミットした」とあります。
そして菅首相は、前述の共同記者会見で、同盟強化の具体的な方途については、両国間で検討を加速することを確認した旨述べるとともに、「この声明は、今後の日米同盟の羅針盤となるものであり、自由で開かれたインド太平洋≠フ実現に向けた日米両国の結束を、力強く示すものであります」と強調しています。(ちなみに、米ホワイトハウスのホームページでは、羅針盤をthe guiding postと翻訳しています)
防衛省・自衛隊としては、強力な日米同盟と多国間主義アプローチを重視する我が国の外交戦略の慎重な展開の中で、国民の皆さんの理解と支持を得ながら、日米同盟の羅針盤に基づいて防衛力の強化・抑止力・対処力の強化等を着実に進めていくことが、国の防衛を担う責任ある行動と言わなければなりません。
そのためには、まず防衛省・自衛隊の全ての隊員自身が、共同声明策定の背景等を含め、その内容をしっかり学び、理解し、納得することが大切ではないでしょうか。改めて申すまでもなく、組織は人であり、隊員一人ひとりが防衛省・自衛隊に与えられた我が国の防衛という任務の完遂に欠かせない、生きた考える存在です。
ここで共同声明に、「日米両国は、インド太平洋におけるASEANの一体性及び中心性並びに "インド太平洋に関するASEANアウトルック" を支持する」との記述が盛り込まれていることに触れてみたいと思います。これまでも日本はASEANを重視し、支援し、2019年6月のASEAN首脳会議で採択された "インド太平洋に関するASEANアウトルック" について、そこに記載された海洋協力・連結性・SDGs・経済等に対する様々な協力を行い、日本ASEAN戦略的パートナーシップの強化に努めています。
かつて東ティモールにて国づくり等に携わってきた筆者としては、東ティモールについても、今から各分野の協力を考慮願いたいと思うのです。東ティモールは、2011年3月にASEANに正式加盟を申請しています。同国の円滑なASEAN加盟を支持して来ている我が国が、実質的に加盟を先取りする外交戦略を展開することは、必ずや我が国の国益にも大きく寄与するものと考えます。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |