ちょうど一年ほど前の6月、この欄に私の隣り町・小鹿野の埼玉県立高校野球部に、石山建一監督(69)が赴任してきたことを書いた。石山監督といえば、知る人ぞ知る球界の知名人で、ひとり歩きもできないような弱小中の弱小高校野球部に何で、と不思議で仕方がなかった。
詳細は省くが、何しろ早大で大活躍し、社会人野球に進んでも日本石油、プリンスホテルの現役、監督として活躍した後、長島・巨人のGMまで務めた大物が…。これは捨てて置けないと、取るものも取りあえず小鹿野高校の試合に駆けつけた。
それから約一年、あれほど"出ると負け"だったチームが、試合ごとに成長して「オヤッ」と思うほどの戦いぶりを見せ始めたのだ。私が注目したのは「県外遠征などしたことのなかったチーム」をこの春、石山監督が関西遠征に連れていったことだ。関西地方にも石山監督の"教え子"だった高校野球の監督が何人もいる。そのチームと小鹿野高校を対戦させることで、試合感覚を教え込もうというのが、石山監督の狙いだったのだろう。
強豪として知られる天理高戦は、レギュラーメンバーとの対戦だった。監督の母校・静岡高をも含めての数試合を行っている。ちょうど春のセンバツ甲子園大会の最中だったため、甲子園のスタンドでも観戦できた。
4月から新任教師として赴任してきた新國直樹監督は、スタンドから出場校のシートノックを見て「ノックの大切さを改めて知った」という。新國監督はいま石山監督から「監督としてのノウハウを1から勉強させてもらっている」とか。石山監督が校外指導者という立場にあるため、公式戦ではベンチ入りできないので、新國監督が指揮を執っているが、夏の甲子園予選までには、さらなる成長ぶりがうかがえることだろう。
こんなことがあった。校庭での練習をネット越しに見ていたサッカー部の生徒が、ピアスをしているのを見た石山監督が「そんなものをしていては、先生も親も喜ぶはずがない。喜んでもらいたかったら、うんと練習して強くなれ。そうなれば周囲の見る目も違ってくる。地元ファンも喜んで応援してくれるはずだ」と諭した。
その生徒は翌日から「こんにちは」としっかり挨拶するようになった。「そのうちサッカーやめて、野球部に入れて下さい、といってきますよ」といったら石山監督、苦笑いしていた。期末試験で落第点ばかり取っていた野球部の生徒が「野球やりたかったら、勉強も一生懸命して合格点を取れ」とハッパをかけられ、次の試験で5指に入る高得点を取った、と石山監督は我がことのように喜んでいた。
関根大輔という2年生の控え捕手がいる。遠征で代打に使われ同点ヒットを打った。「バットスイングの速さ、キャッチボールの大切さ…。何から何まで勉強することばかり。これからも監督のいうことを無駄にすることなく、体を鍛えあげてレギュラーを取れるよう頑張りますよ」と話していた。
石山監督を慕って、留学までして野球に勉強に汗を流し続ける生徒たち。いま、他のスポーツ部門で指導者の暴力ざたが話題になっているが、指導者の大切さをしみじみと感じる小鹿野高校野球部の成長ぶり。これからも地元民と一緒に、しっかりと見守っていきたい。 |