8月18日、米国キャンプ・デービッドにて、岸田文雄首相・ジョセフ・バイデン米国大統領・ユン・ソンニョル韓国大統領は、日米韓首脳会合を行いました。マルチ会合の機会ではなく、単独で日米韓首脳会合が開催されたのは、史上初めてとのこと。また、岸田首相とユン・ソンニョル大統領は、バイデン大統領がキャンプ・デービッドに最初に招いた外国首脳となりました。
会合終了後、「キャンプ・デービッド原則」、「日米韓首脳共同声明」、「日本、米国及び韓国間の協議するとのコミットメント」を発出し、3者は共同記者会見に臨みました。
これまでの日米韓3か国の協力関係は、主として北朝鮮の核やミサイル開発に対するものでした。
しかし、今回合意された「キャンプ・デービッド原則」、「日米韓首脳共同声明」は、ロシアのウクライナ侵略、覇権主義的行動を益々強めている中国を念頭に置いて、3か国の協力範囲をインド太平洋地域にまで拡大。同地域の安全保障を中心とした広範囲の協力を、継続的かつ確実に行っていこうとする決意を表明しています。
曰く、
「日米韓三か国は、インド太平洋国家として、国際法の尊重、共有された規範及び共通の価値に基づく自由で開かれたインド太平洋を引き続き推し進める。我々は、力又は威嚇によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する。」「日米韓三か国の安全保障協力の目的は、地域全体の平和及び安定を促進し、強化することにあり、また、そうであり続ける。」「何よりも、日米韓が一丸となった時、我々三か国、そしてインド太平洋の力は更に大きなものになると考える。」(「キャンプ・デービッド原則」)
「我々は、日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへ(to new heights)と引き上げる。この新たな時代に共に乗り出すに当たり、我々が共有する価値が我々の指針となり、三か国の5億人の国民が安全と繁栄を享受する自由で開かれたインド太平洋が、我々の共通の目的となる。」「我々のパートナーシップは、我々の国民のためのみならず、インド太平洋全体のためにある。」(「日米韓首脳共同声明」)
そして共同記者会見での岸田首相発言。(首相官邸HPより 筆者抜粋等)
「・・・今、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が危機に瀕しています。ロシアによるウクライナ侵略により、国際社会は、その根幹が揺るがされています。東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みは続き、北朝鮮による核・ミサイルの脅威はますます増大しています。
こうした状況において、今、日米韓3か国の戦略的連携の潜在性を開花させることは、我々にとっての必然であり、また時代の要請でもあります。本日、ここに我々3人は、「日米韓パートナーシップの新時代」を拓いていく、という決意を示します。」
更に、岸田首相は、3か国の協力をいかに展開していくかについて、次の3点を挙げています。
(1) 日米同盟と米韓同盟の連携を強化し、日米韓3か国の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる。複数領域に及ぶ日米韓共同訓練の毎年の実施、北朝鮮ミサイル警戒情報のリアルタイム共有、北朝鮮のサイバー活動に対するワーキンググループの立ち上げ等。
(2) 日米韓の連携の推進と、その分野を拡大する。北朝鮮に対する制裁の完全履行・対話・拉致問題、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて連携、特にASEANや太平洋島嶼国に対する海洋安全保障分野での能力構築支援、重要・新興技術協力、サプライチェーン強靭化等。
(3) 日米韓協力の枠組みを整備し、3か国の連携を継続的かつ安定的に強化して行く土台を創る。あらゆるレベルで、重層的に連携を進めて行く。少なくとも年1回の日米韓首脳会合開催、外務大臣・防衛大臣・国家安全保障局長もそれぞれ少なくとも年1回会合開催、財務大臣・商務産業大臣会合も実施等。
今回の日米韓首脳会合で打ち出された安全保障分野を中心とした3か国の連携の強化・拡大が持つ歴史的意義は、大変大きいものがあります。他方、中国は激しく批判しています。
それだけに、3か国の連携がインド太平洋地域の平和と安定に真に寄与する枠組みとして機能するよう、3か国は一層緊密な会談・意思疎通に努め、相互に信頼関係の下、それぞれに国内政治事情等を抱えながらも、合意内容を確実に実施して行かなければなりません。
同時に、中国との対話の重要性については論を待たず、これまで以上に機会を捉え、継続して行って頂きたいと思います。
また、本年12月、東京にて「日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議」を開催する我が国にとって、ASEAN諸国(加盟が近い東ティモールを含む11か国)に対する能力構築支援等を含めた関係強化は、喫緊の課題でもあります。
改めて述べるまでも無く、日本と米国、米国と韓国は、相互に強固な同盟関係にあります。日本と韓国は、同盟関係にはありません。
今回発出された「日本、米国及び韓国間の協議するとのコミットメント」は、次のように記しています。
「日米韓三か国は、安全保障上の利益又は主権を堅持するため、全ての適切な行動をとる自由を保持する。このコミットメントは、日米安全保障条約及び米韓相互防衛条約から生じるコミットメントに優先したり、これと抵触したりするものではない。このコミットメントは、国際法又は国内法上の権利又は義務を生じさせることを意図するものではない。」
こうした前提で、日米韓の安全保障上の協力・連携を考えるとき、同盟関係に無い日韓は、具体的にどのようなときに、いかなる協力が期待され、どのような協力を行うことが出来るのか。また実行しなければならないのか。巷間言われている「台湾有事」が万一生起した場合にはどうするのか。あるいは朝鮮半島有事の際は?国民は、それらの事態に臨んで協力する覚悟は出来ているか。そんな疑問が湧いて来ます。しかし、日韓の信頼関係を前提とした日米間の緊密な連携が、ひいては日米・米韓同盟の信頼性の一層の強化に寄与すると言っても過言ではありません。
国際公約をした我が国が、その合意に基づいて協力の責任を果たして行くためには、まず国民の理解と覚悟、そして支持を得なければなりません。その上で、日韓・日米韓で早急に詰めておく。課題は多く、そう簡単なことではないと思います。
日米両国間にあるような外務大臣と防衛大臣による2+2の日韓版を速やかに開設する。日韓が相互信頼を前提とした協力を協議して行くための第一歩と考えます。
なお、現在世界的に注目されている福島第一原子力発電所からの処理水排出についても、科学的根拠に基づいた分かりやすい説明と関連するデータを全て継続的に公表していく透明性を持った真摯な対応が、既に理解を示してくれている韓国や米国をはじめとする多くの国々との信頼関係維持にとって、欠くべからざることは申すまでもありません。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |