損保会社は、人々や企業等あるいは地域社会の「いざという時」に対応することが使命です。そのために、あらゆるリスクを考えそれに備える商品やサービスを準備し、いざという時に適切に対応することが求められています。私は、東日本大震災の際、統合任務部隊司令部で勤務しておりました。指定公共機関等の活動は承知しておりましたが、当社も発災と同時に活動を始め、極めて重要な役割を果たしていたことを入社後知りました。発災直後に対策本部を立ち上げ、その日のうちに支援物資と共に人員を被災地に差し向け、現地における支援に当たっておりました。「いざ」に備えることは、正に安全保障そのものです。安全保障に携わった者が、この組織で担っている役割の一端をご紹介したいと思います。
現役時代に常に意識していた「任務分析」特に「地位・役割」を自分なりに分析し勤務しております。私は、防衛省出身の顧問であり会社全般の顧問でもあるという地位にあります。その具体的な役割は、(1)現在ある商品・サービスのユーザー目線でのチェック (2)環境の変化に応じたリスク・課題への対応(提言) (3)商品・サービスを必要な相手に届ける工夫 (4)人材育成と考え勤務を始めました。以下、具体的にご紹介いたします。
隊員が海外訓練に参加したり留学する際の保険を当社が取り扱っておりますが、公務で補償されない事案に対応するためその増額プランを新規開発することになりました。担当者のサポートとして、過去の経験等に基づき課題等を整理し、補償すべき対象や補償額の検討をいたしました。プランが確定した後は、本制度の普及に努めて参りました。このプランは、海外訓練や海外勤務そして留学において公務として補償されない分野をカバーするもので、隊員やその家族のために大変重要なものであり、その開発と普及に携われていることは防衛省出身として誇りに思っております。
損害サービス部門では、現在多くの元自衛隊員が勤務しております。この部署は、「いざ」に対応している部門であり、担当者が適切に対応できることは顧客を守る上で大変重要です。そのためまず現状を知ることが大事であり、営業関連で地方に出張した折に損害サービス部門の方と懇談をしております。また同期が勤務する損害サービス課での研修の機会を頂き、課長はじめ指導に当たる人達、損害サービス業務に当たる人達と懇談し課題の把握に努めました。これらを他の顧問と共有するとともに担当部署に伝え、改善につなげる手助けをしております。
商品・サービスを必要な相手に届けるために、当社の使命(隊員とその家族を全力で守る)や商品・サービスの特徴を説明するための媒体やコンテンツの工夫を重視しております。最近では、自動車保険の特約としてドライブレコーダーを紹介しており、AIによる事故状況再現システムにより事故を起こした隊員の負担軽減に繋がると評価されております。
気候変動、サイバーリスク、働き方改革、女性活躍等社会が抱えるリスク・課題は広範・多岐にわたります。自然災害だけを見ても頻度が増し激甚化が進んでおります。当社が持つ情報等を災害に対処する自衛隊等に提供することは極めて有益です。その他多くの分野での価値提供も重要と考えております。人材育成としては、所属部署での講話をはじめ、経営陣、役員クラス、部長クラスに対する講話、地方支店での講話、あるいは他部署からの依頼を受け取引先企業での講話など行っております。主として統率、危機管理をテーマにしておりますが、東日本大震災対応など自衛隊の活動や中国情勢等国際情勢も紹介しております。また、縁あって自治体からの研修生に対しても講話をする機会を頂き、社内の幅広い方たちとの交流につながっております。余談ですが、皇居ランチームの顧問も務めており、月一度、皇居の周りを走った後、参加者と懇親を深めております。自治体からの研修生も多く参加し、私の所属部署以外の参加者も多く、交流を深めるいい機会になっております。また、懇親の場は社員の悩みを聞きアドバイスもする社員教育(人材育成)の場にもなっております。
また、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「新型コロナウイルスに何故自衛隊は適切に対応できたのか(自衛隊中央病院の例)」をテーマとした講話も行っております。医療に無関係な私ですが、メディアでは取り上げられない視点「備え、組織力、徹底」をキーワードに自衛隊中央病院でのインタビューを重ね、危機管理と組織論をベースに幅広い分野の方々に講話する機会を頂きました。
以上私の活動の一端を紹介させて頂きました。顧問の役割は、所属企業・部署あるいは顧問の経歴によりまちまちです。本稿が、広く企業の皆様や顧問の職に就く現役幹部の皆様に少しでも参考となれば幸いです。
(著者略歴)
防大24期生・第4普通科連隊中隊長(帯広)・第25普通科連隊長(遠軽)・第1混成団長(沖縄)・防衛研究所副所長(目黒)・東北方面総監部幕僚長(仙台)・統合任務部隊司令部幕僚長(東日本大震災)・第4師団長・富士学校長等を歴任 |