1年半以上続くコロナ禍。なお収束の見通しは立っていません。
懸命に接種の加速化に努めている政府と自治体の皆さん。自衛隊員も頑張っています。
ワクチン接種の効果にすがるような思いで接種会場に足を運んでいる高齢者の方々に続き、接種を待ち望んでいる大多数の国民の皆さんにも、一日も早い安心が届くことを願って止みません。
静かに小ぬか雨に濡れている紫陽花を見つめていますと、何かしら心の安らぎや命の逞しさのようなものを感じます。さらにジューンブライド、6月に結婚する花嫁は幸せになるというロマンチックな言い伝えも浮かび、中学生の孫も将来ジューンブライドになったらいいなぁなどと勝手な夢を膨らませています。
そんな中、6月5日付新聞各紙が大きく報じたのは、厚生労働省が6月4日に発表した2020年の人口動態統計(概数)でした。その内容は大変衝撃的なものです。
2020年の婚姻数は52万5490組。前年の2019年に比し7万3517組の減。一気に12・3%と大幅に急減し、戦後最少を記録したとのこと。
若年層の婚姻や出産など家族形成に対する価値観や意欲、更にコロナ禍のため外出自粛や在宅勤務の浸透あるいは経済的困窮により益々仕事へ軸足を置かざるを得ない状況などから、出会いの機会等が減り恋愛もしづらくなったり、婚姻を先延ばしたなどの背景が指摘されます。
ちなみに同年に国内で生まれた日本人の子供の数については、わずかに84万832人。5年連続の減で、1899年の統計開始以降最少とのこと。死亡者数(137万2648人)との差「自然増減数」は、53万1816人減。過去最大の減少となっています。
各紙は、2020年の婚姻数の大幅減少・感染への不安からして、2021年の出生数は80万台を下回る公算が濃厚と報じています。少子化の急加速です。
たとえ今後コロナ禍が収まったとしても、コロナ以前の状況からして、婚姻そして出産を望む人の数がV字回復するとは思えません。
このままの流れでは、社会保障制度の破綻、消滅する自治体が続出することは避けられないのではないでしょうか。いずれ国の根幹が立ち行かなくなる事態の招来を危惧して止みません。正に緊急事態です。若年層に寄り添った実効力ある重層的な思い切った施策が待ったなしに求められます。
安全保障の面でもしかりです。例えば、我が国固有の領土である尖閣諸島に対する中国海警局公船の執拗な挑発行動、国際法を無視した一方的に現状変更をもくろむ様々な覇権行動は、益々エスカレートして行くに違いありません。今後、どのように厳しく変化する国際安全保障環境の中にあっても、防衛省・自衛隊は常に国民の負託に応えて行く責任があります。そのために必要な人材をどう確保して行くか。国民の理解と支持を前提とする先送りできない我が国防衛政策最大の難題です。
ところで母の日に比べると数段影が薄いですが、6月は父の日があります。今年は20日。
隊員・ご家族の皆さん、本紙読者の皆さんには、それぞれお父さんを思い浮かべることでしょう。僕の父はすでに亡くなっていますが、一生懸命働いている姿や鉄拳制裁を受けたり応援してくれたことなどを思い出します。
そんな僕も立場を変えれば父親の一人。息子が僕をどう思っているかは分かりませんが、昔、何かの折に「いつも見守ってくれていることは感謝している」とボソッと言ったことは覚えています。
そういえば、作家城山三郎さんが書いていたなぁ、と引っ張り出して来たのが同氏の「少しだけ、無理をして生きる」(新潮文庫)。
その中で城山さんは、「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」(キングスレイ・ウォード著 城山三郎訳 新潮文庫)を取り上げ、この実業家は自分はもういつ死ぬかもわからないので、とにかくどう生きたらいいかということだけは息子に伝えておこうと発心したと紹介し、「 "とにかくよく準備をしろ" "とにかく挑め" "とにかく人に信頼される人間になれ" ウォードさんの手紙で、繰り返し説かれるのは、この三点なんです」と記しています。
さらに城山さんは、いろんな局面で手紙に書かれた父から息子への具体的な忠告についても挙げています。 "想像力を持つ" "人間をよく見極める目を持つ" "他人のアイディアを手早く商品化する能力を持つ" "自分の信念を守る強い勇気を持つ" "情報の重要性" "危険を避けない" "動きが速すぎてはならない" "愚痴を言うな" の8つ。
最後に「日本人にも肯(うなず)けることばかりではないでしょうか。そして、日本人にも羨ましく思える親子関係ではないでしょうか」と城山さんは締めくくっています。
さて、今年も間もなく6月23日が来ます。沖縄慰霊の日。かつて上皇陛下が言われた広島(8月6日)・長崎(8月9日)の原爆の日、終戦の日(8月15日)と共に忘れてはならない4つの日です。
本年も新型コロナ感染拡大が続いているため、昨年に続き「沖縄全戦没者追悼式」は大幅に規模が縮小されます。こうした残念な事態が続いても、私たちは20万余の皆さんが犠牲になった悲惨な沖縄での地上戦を風化させるようなことがあってはなりません。歴史に対する謙虚な学びの中から教訓を見出し、自分自身を含め将来に活かして行くことは、私たち今を生きる世代の大切な責務ではないでしょうか。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |