防衛大学校防衛学教育学群統率・戦史教育室の五十嵐隆幸准教授(3陸佐)はこのほど、研究書『大陸反攻と台湾-中華民国による統一の思想と挫折-』で第12回地域研究コンソーシアム賞(研究作品賞)、第8回猪木正道賞(正賞)、第34回佐伯喜一賞(最優秀出版奨励賞)の三つの賞を受賞した。五十嵐准教授は昨年2月に第38回大平正芳記念賞を受賞しており、合わせて四つの学術関連賞を受賞したことになる。
10年以上の研究の成果高く評価され
受賞作『大陸反攻と台湾-中華民国による統一の構想と挫折-』は、台湾の政府が掲げた「大陸反攻」を初めて解明した研究成果で、今日、国際社会から注目を集めている台湾海峡を巡る問題の全体像を歴史的視野で描き出した。
研究書で複数受賞は珍しく、4賞の受賞は極めて異例であり、研究テーマである「台湾」に対する関心の高さを物語っている。
地域研究コンソーシアムは、世界諸地域の研究に関わる百以上の組織を連携させ、組織の枠組みを超えた情報交換や研究活動を進めるため、2004年に設立され、これまでに11回の授賞を行ってきた。五十嵐准教授が受賞した研究作品賞は最優秀賞に該当し、今回は2名が受賞。自衛官としては初めての受賞となる。
〜猪木正道賞(正賞)など〜
特定非営利活動法人日本防衛学会猪木正道基金は、わが国の防衛と安全保障並びに国際平和に関する分野で優れた業績を挙げた個人またはグループに対して賞を授与し、当該分野における学術研究の振興並びに広く研究者の育成に寄与することを目的として日本防衛学会会員有志によって2014年に設立された。
最優秀賞に該当する正賞は、17年に防衛研究所戦史研究センターの金澤裕之氏(現防衛大学校防衛学教育学群統率・戦史教育室、2海佐)が受賞して以来自衛官として2人目の受賞。
国際安全保障学会は、安全保障・軍事防衛問題に関する理論的・実証的研究を行うことを目的に1973年に設立され、学会誌の発行、年次研究大会等の開催、国際交流、学術研究の奨励事業などを行ってきた。最優秀出版奨励賞は2011年に防衛大学校教授の荒川憲一氏(元1陸佐)が受賞しており、五十嵐准教授は現役自衛官として初めての受賞となる。
防衛大学校で五十嵐准教授は、古代から現代に至る主要な戦争の概観、戦争の本質・変遷など防衛学における基本的・基礎的知識のほか、東アジアの安全保障について教育してきた。本書は、その教育の傍ら資料収集やインタビューなど10年以上地道に積み重ねきた研究成果を取りまとめた。
「東アジアの平和と安定への貢献願う」五十嵐准教授
受賞作の『大陸反攻と台湾-中華民国による統一の構想と挫折-』を執筆するきっかけは、2005年に中華人民共和国政府が「反国家分裂法」を制定した時にさかのぼる。温家宝総理(当時)の演説を聞き、将来、台湾海峡で再び紛争が起きた時、日本は何ができるのかを調べてみた。しかし、台湾海峡両岸の対峙を安全保障の観点から分析した研究書は少なかった。本書はかつて「中国統一」を国家目標として掲げていた台湾の政府の視座に立ち、今もなお台湾海峡を隔てて分断されている「中国」の問題について、歴史的に再検証した。研究の成果が東アジアの平和と安定への貢献となることを願ってやまない。 |