ロシア下院は6月20日の本会議で、9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第二次世界大戦終結の日」とする法案を可決した。プーチン大統領の署名で成立する。ソ連時代はこの日を「対日戦勝記念日」としていた。ソ連を継いだロシアはこの日を「第二次大戦終結の日」としており、「軍国主義日本に対する勝利と」という文言は入っていなかった。下院での可決は、ウクライナ戦争における日本のウクライナ支援に対する報復措置とみられている。
ロシアは第二次世界大戦の勝利を強調し、誇る。ロシアはナチス・ドイツとの戦争を「大祖国戦争」と呼ぶ(19世紀初めナポレオンのロシア侵攻に打ち勝った戦争を「祖国戦争」と呼んでいる)。一般には第二次世界大戦の「独ソ戦」または「東部戦線」と呼ばれるナチス・ドイツとの死闘で、ソ連は2千7百万人という膨大な犠牲者を出しながら、勝利することができた。
第二次世界大戦で連合国の勝利に大きく貢献したソ連は、アメリカと並ぶ世界の強国となり、大戦後東側世界を支配した。米ソは冷戦状態となったが、1989年ソ連の支配下にあった東欧の共産党政権が次々に倒れ(東欧革命)、冷戦が終わった。また1991年に
はソ連も崩壊してしまった。
ソ連の消滅後、大統領エリツィンによるロシアの急激な市場経済への移行はうまくいかなかった。社会は混乱し、失業者は増え、インフレで収入・資産は減り、貧富の格差は広がった。エリツィンを継いで2000年大統領となったプーチンは「強力なロシア」の再建を目標に掲げ、中央政府の統治権限を強化し、財政健全化、インフレ抑制などを進め、原油価格高騰の追い風もあって、ロシア経済は好転した。
ロシアは強国でなければならないと固く信じるプーチンは、18世紀、領土を拡張しロシアを強国にしたピョートル大帝とエカテリーナ2世を深く尊敬する。プーチンはウクライナ侵攻を、領土は奪い返す責務があるなどと言ってピョートル大帝の北欧侵攻になぞらえた。エストニア外務省は、プーチンが3百年前のピョートル大帝によるエストニアの首都ナバルへの侵攻を「ロシアによる領土の奪還」などと述べたことに抗議した。「ロシアの安全を確保するためには領土拡張こそが最重要である」との考えがロシアのDNAのようになっており、プーチンも歴代のロシア皇帝のようにこれを堅持している。
プーチンはソ連崩壊とその後のロシアの混乱、東欧諸国のソ連勢力圏からの離脱、及びNATOの拡大も西側にやられたと思っている。彼は西側を全く信用していない。国の指導者がナショナリストで、世界を自国本意に認識するのは普通のことであるが、プーチンは極端である。東欧革命は、西のような自由主義国になりたいと思う人々の欲求がもたらした自然な流れであり、NATOの拡大も、東欧諸国が自国の安全のために加盟を欲した自然な動きだと私は思うが、プーチンはこれもロシアを弱体化させる西側の意図と見る。
ロシアの歴史を知ると、ロシアは相当無理をしてつくられたてきた大国であることがわかる。弱者意識をもつロシアのDNAともなっている防衛的領土拡張主義が、他国との共存を難しくしてきた。日本はロシアよりも良識的な世界認識をもつ。日露関係の歴史はロシアより日本の方に名誉がある。日本は決して侵略されることのない防衛力を堅持し、堂々とロシアとつきあえばよい。
(令和5年7月1日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii-nihon.themedia.jp/)などがある。 |