本書「千の約束」。これは、内に秘めていた想いが溢れ出てくる書である。待っている者から出征する者へ、出征する者から待っている者への深い愛情が溢れている。
戦時中の母として妻として兄弟としての振る舞い、想い、そして大切に保管していた宝物。それらを松江護國神社 禰宜 工藤智恵さんは伺い、大切な手紙や宝物を見せてもらい、その事実を淡々としかし愛に包まれた文章でまとめ上げている。工藤氏は戦争でご家族を亡くされたご遺族のお話を講演などでもされているが、その中から島根県東部・出雲地方・隠岐地方の14人のご遺族の思いを、出征する父親が小学2年生の娘に「守ってほしい約束を千個書いた。必ず帰るから、それまでこの約束を守りながらお母さんを助けてあげておくれ」と渡した手紙から『千の約束』と題し本にした。「戦後長い時が流れ、遺族さまの高齢化も進み、遺児の方々も80歳を超える方が多くなり、遺族さまの思いを形にするには今しかない」「戦争未亡人の皆様は、ご主人様を亡くされてから、大変な困難を超えて、家を守り、お子様を育て、生きてらっしゃった。奉職したての私は若く奥様方と言葉を交わすことさえ憚られるような思いをしたが、10年ほど経ち奥様方からお声をかけて下さるようにもなって来た」。そんな工藤氏の英霊の不滅の魂とご遺族様の深い永遠の愛を伝えたいという思いが文章に透けて見えてくる。コロナ禍で今までにない経験が多い昨今、改めて愛するものを護るため命を捧げた人々に思いを馳せたいと思わされる一冊である。
監修 広島陸軍幼年学校48期 広島大学名誉教授
高崎 禎夫
お問い合わせ 島根県松江護國神社まで。
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