お盆休みに生家の本棚を探していたら「新聞新語辞典」というものが出てきた。1934年発行だから70年前の代物だ。祖父母、父母と読み継いだものだと思うと懐かしくて開けてみたらびっくり、毎年自由国民社から出版されているベストセラーの「現代用語の基礎知識」の原型だった。辞典としての組み方もつくりかたも同じ、序文も今でも通用するものだ。「科学文明の著しい進歩に伴れて、ラヂオ、テレビジョン、キネマ、トーキー、飛行機、飛行船、写真電送等々と急テンポで時代は移り変わっていく、何れの時代でも、それぞれの流行語があり、新造語が現れ出、その時代精神の片影を示すものである。殊に今日の如く文化や政治経済の国際化するに及んでは我々の生活内容も次第に世界的となり、日常の会話にも知らず識らずの間に国際語を容易に使用し、我々の語彙は非常に広汎に亘っていく」。明治維新から60年余の文章だから当時の進取の気概が感じられる。もうアイドル〔偶像・聖像〕も載っているし、興味を引くのが在外正貨〔対外債務を決裁するため、日清戦役後支那から取った2億両を英蘭銀行に預金してから我が国は常に海外に正貨を置いている〕。ガソリンガール〔自動車の往来繁く各所に給油所を作り小奇麗な女売り子を置く〕など、こういうものもあったのだ。1933年の初版は30万部が売れたそうだからこの面でもすごい。発行は東京市麹町区の日刊新聞通信社、探してみたが見当たらない。現存していなくてもこの会社の実績は日本の文化史上に永遠に残るはずだ。そんな仕事をしたい。
(所谷)
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