私は、第15期イラク復興支援派遣輸送航空隊業務隊長として、平成20年3月クウェートに到着しました。3月中旬日本を出発する際には、我が家の庭では、冬の枯れ枝の中から梅の木が花を咲かせ始め、三分咲きになった頃でした。これから春を迎え、色鮮やかな花々が咲き、新緑の美しい季節がやってくる直前に、家族と別れ祖国日本を離れて、遠く中東の地に派遣されたことになります。
クウェートの基地に到着して感じたことですが、暑さについてはある程度覚悟していたものの、緑が全くと言っていいほどなく、ただ砂だらけの景色を見た時には、さすがにあまりの環境の違いに大変違和感を覚えました。4月になり日本での花見のニュースを見た時には、今日本では桜が満開になり、それぞれの家族や職場で花見をしているのだなあと深い望郷の念におそわれました。そして毎日砂だらけの景色を見る度に、荒涼とした砂漠の中の基地に来たのだなとつくづく日本の緑豊かな自然の美しさに思いを巡らせました。中東のクウェートという荒涼とした砂漠の国に来て、初めて水と緑の豊かな祖国日本の美しさを身に染みて痛感しました。ただ人間の適応力は計りがたいものがあり、1ヶ月も経過すると、その荒涼とした風景にだんだん慣れて来て、2ヶ月もするとそれが日常的なものとしてごく自然に受け入れられるようになってきたのです。ただ砂だらけの世界に順応してきたのです。不思議なものです。
さて、私は、航空自衛隊入隊以来30有余年が経過し、来年定年を迎えようとしています。このような時期に、重要な部隊の指揮官職を拝命し、実任務を担当させて頂く機会を得たことは、私にとっては大変光栄なことであり、この勤務経験は一生忘れられない貴重な体験になっています。そしてこれまでの自衛隊勤務で培った知識と経験を遺憾なく発揮しこの任務を完遂すべく努力しています。また、この15期の期間中に平成16年3月から開始した任務運航が700回に達したことは、先人達の築いた功績の集大成として大変感慨深いものがありました。現時点においても我々は無事故任務飛行を継続実施中であり、これは各国からも高く評価されているものであります。
ここアリ アル・サレム基地には米軍等が駐留していますが、私の知る限り、米軍人は自衛隊員を本当に真の友人として暖かく接してくれているように感じられます。それは業務隊として必要な各種支援について、快く引き受けてくれるのみならず、日常の何気ないやりとりの中でも自衛隊員を常に友人として心豊かにもてなしてくれていると感じることが出来るからです。
私は、我々航空自衛隊員が、遠く祖国を離れたこの荒涼とした灼熱の中東の地で、任務を遂行することが、イラクの復興支援に貢献するばかりではなく、世界中の各国の厚い信頼を勝ち取ることができると考えており、また、そのことが我が国の安全保障に大きく貢献しているのだという強い信念と自覚の下に、最高気温が連日45℃を超え、砂塵と熱風が吹き付けるような厳しい環境下で任務を遂行しています。我々は、祖国日本の平和と安全を心から望んでいます。日本から遠く離れたこの中東の地においても、祖国日本の平和と安全を望みつつ勤務している隊員達がいることを覚えて頂ければ幸いに思います。
最後に、私は7月には祖国日本に帰国します。そして今回の経験を今後の勤務に生かしていきたいと思っています。帰国したら、心新たな気持ちで緑豊かな美しい日本の自然に接するとともに留守を預かってくれた家族、職場の上司、同僚等と再会できることを心から楽しみにしています。さらに、今回の派遣に際しましては、数多くの方々からのご支援を頂き本当にありがとうございました。心から感謝しております。
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